「顧客に近づく」という言い回しには、先端技術を思い起こさせる確かな響きがある。アメリカン航空やR.J. レイノルズ社などの先見性のある企業では、強大な顧客情報システムを構築して、競合会社の中で確固たる地位を手に入れた。このようなシステムを利用して、これらの企業は顧客一人ひとりへの理解を深めるだけでなく、新製品の開発や市場参入に関する情報を入手している。

 しかし、最新の顧客情報システムがミクロ・マーケティングや、マス・マーケティングを支援してくれるとはいっても、このようなシステムの開発は困難であり、費用もかかる。導入費用のあまりの高さに、トップ・マネジメントの中には、情報技術が本当に競争優位という奇跡を実現しうるのかどうか、疑問視する者もいる。だが一方で小売業者や消費財メーカーは、優れたマーケティング情報システムが提供してくれる新たな規模の利益を無視するほど、余裕があるわけではない。特に小売業者では相変わらず、ほとんどの情報を包括的な顧客情報システムから入手している。確かに、1980年代に航空業界に変革をもたらしたサーブル(SABRE)やアポロ(Apollo)などのコンピュータ予約システムのように、マーケティング情報技術は小売業界において今日の企業淘汰を加速していくのは確かなようだ。

 種々の問題点があるにもかかわらず、情報を加工、統合する必要性について議論するマーケティング担当者はほとんどいない。市場が細分化されるに伴って、製品数が増加していき、マーケティング環境はますます厳しいものになっている。メーカーは何を製造するかを悩み、小売業のバイヤーは製品選択の難しさにとまどい、そして広告業者はさまざまに区分された市場に向けて、大量の製品に関する適切なメッセージを伝えようともがいている。

 最新の顧客情報システムを導入すれば、マーケティング担当者たちは混乱から抜け出し、日々の情報の山から最も適切な情報を取り出せるようになる。その核となる技術のほとんどはまだ未成熟だが、新世代の情報システムの基盤となる。洗練された新システムは、従来のマーケティングとは次の3つの点で区別され、企業に戦略的に優位な立場をもたらすだろう。

□データベースの規模は、従来のものに比べかなり大きく、数百万件の顧客情報を処理できる。

□個人または個々の家庭に関する情報の詳細さや量もかなり大きくすることができる。各家庭の完璧な購買情報など、何百あるいは何千のデータ項目を収集、分析することができる。

□高度に自動化された業務機能の一部としてこの情報を使用できるため、従来のマス・マーケティング・キャンペーンを大量に打つのとは全く異なる。

 事実、このような顧客情報システムを備えた企業は、新製品に関心のある顧客グループだけに自動的にターゲットを絞れるようになる。

 このようなミクロ・マーケティング技術は、大手企業が小規模で柔軟性のある企業のやり方をまねて市場ニッチを獲得できるため、大企業の生き残りにとって非常に重要な要素となる。たとえば、豊富な情報の中から効率よく情報を厳選できるようになる。その結果として、A&P社(The Great Atlantic & Pacific Tea Company)という大手スーパーマーケット・チェーンは個々の顧客にターゲットを絞り、低価格による一括仕入れをできるようになった。