トヨタ自動車がこれまで実施してきた継続的改善(Continuous Improvement)は、いまではビジネス界の伝説となっている。この30年間、トヨタは社員の協力の下、低コストで、欠陥のない自動車を開発・生産するために、より迅速に、より効率性の高い方法を見つけようと全力を挙げてきた。それは素晴らしい結果となって表れ、トヨタは、品質と低コストに関して、自動車産業の最高水準に到達したのである。

 しかし、マス・カスタマイゼーション(大量生産と同じコストで顧客に合わせて製品のカスタム化を図ること)、すなわちトヨタの最近のパイオニア的試みに関しては、従来のような成功を遂げられなかった。1980年代後半、ついにアメリカ企業が日本企業に追いつこうとする頃、トヨタの経営陣は、熟練と柔軟性を備えた自社の労働者の力を借りて、豊富なバラエティーを揃え、顧客に合わせてカスタム・メイドできる製品を、大量生産の標準化製品と同じコストで生産することに乗り出した。このとき、トヨタの経営陣は、マス・カスタマイゼーションを継続的改善の延長と見ていた。

 1992年の初めでは、トヨタは、マス・カスタマイゼーションという目標、すなわち新製品の開発期間を18カ月に短縮し、各モデルについて幅広いオプションを顧客に提供し、個別注文を受ければ3日以内に製造し、配送するための道程を順調に歩んでいるかのように見えた。しかし、この18カ月間を見ると、トヨタは困難な状況に陥っており、少なくとも一時的にはマス・カスタマイゼーションを志向するという目標から退却せざるを得なかった。生産コストが急騰する中、経営陣は製品開発とモデルのライフサイクルを延ばすとともに、ディーラーにもっと多くの在庫を持つように要請した。さらに独自の調査によって、製品バラエティーの20%で売上げの80%を占めていることが明らかになり、提供するオプションの数を5分の1ばかり絞り込んだ。

 いったい何が起きたのか。トヨタが掲げた新しい目標は、最初の第一歩でつまずいてしまったのだろうか。それとも経済環境の悪化の犠牲となったのだろうか。多くのアナリストは、日本の景気後退と円高こそが、トヨタをマス・カスタマイゼーションから後退させた犯人だと信じている。確かにこのような要因によって、トヨタの競争上の地位は弱体化し、利益も減少した。しかし、トヨタの経営陣によれば、これらの要因がマス・カスタマイゼーションから後退した唯一の理由ではなかった。経営陣は、厳しい現実に直面して初めて、マス・カスタマイゼーションが単なる継続的改善の延長ではないことを学習したのである。

 これまで継続的改善を推進してきたメーカーやサービス会社の経営幹部のほとんどは、マス・カスタマイゼーションが、従来とはまったく違った、一般的にも極めて馴染みの薄いビジネスのやり方であることに気づいていない。このような誤解はよくわかる。なぜなら、継続的改善が業務のプロセス能力を向上させるということは、そのプロセスに固有なフレキシビリティーが増加することにほかならない。さらに、労働者が仕事に慣れ、スキルの範囲を広げれば広げるほど、彼らのタスクはますます複雑に組み合わされ、例えば、多品種の製品を組み立てたり、個別受注のサービスを提供したりすることができるようになるからである。

 継続的改善がマス・カスタマイゼーションの前提条件であると考えた点で、経営幹部たちは正しかった。しかし、トヨタ、アムダール社、ダウ・ジョーンズなどの経験から、次第にある一つのことが明らかになってきた。つまり、継続的改善とマス・カスタマイゼーションは、組織構造、価値観、経営者の役割と経営管理システム、学習方法および顧客関係の持ち方において、まったく異なるものを必要としているのである。

 継続的改善システムでは、チームの固い団結に、予測可能な、かつ逐次的なやり方を加味することで、異なりはすれども、互いに影響し合う職能の間をうまく調整する。原点とも呼ぶべきこのシステムの特徴には、あらゆるプロセスに用いても、絶えずそして漸進的に品質を改善し、顧客の満足に貢献していくという信念がある。しかし、マス・カスタマイゼーションのシステムと大きく異なる点は、この継続的改善システムが、決定済みの製品の基本デザインを大して疑問視しないことにある。すなわち、その基本デザインを勝手に顧客が望むものであると仮定しているのだ。

 継続的改善に向けた組織では、労働者は自分の仕事を改善するのに役立つような用具や技法についての教育を受ける。その基本原理は、OJTで学習し、そのやり方を改善していくことである。このような組織の管理職は、ルーティン的な仕事からも信頼性の高いアウトプットを確保する一方で、「最優良である」というビジョンに沿って、無駄を取り除き、品質を向上させるという過酷な任務に全員を駆り立てる。

 こうした管理職は、プロセス間の結び付きを強固にすることにひたすら努力している。その結果、すべてのチーム、そして労働者一人ひとりは、自分の職能が、他の職能ひいては製品やサービスの品質にどのような影響を及ぼすかを理解することができる。管理職は、常に社員と直接会って、結束を促し、改善を求め、そしてチームにとって正しいことを働きかけるコーチであらねばならない。管理職は、共同体であることに価値を見出すような社員教育を試みる。というのも、個人の利益は、チームや会社、そして顧客の利益によってもたらされるからである。

 これに対して、マス・カスタマイゼーションでは、どちらかといえば自律的な業務ユニットをダイナミックに結ぶネットワークを必要とする。各活動単位は、通常、例えば、ある部品をつくる、特殊な溶接を施す、信用状況の審査を行うなどといった、ある特定のプロセスもしくはタスクとして置き換えられる。この活動単位には外部の納入業者や供給業者が含められることもあるが、概して、毎回同じ順序で相互に組み合わせられたり、共同作業を行うケースはない。むしろ、製品をつくったり、サービスを提供したりする際、個々の活動単位が、いつ、どのように組み合わされ、いかに共同するかは、それぞれの顧客が何を望み、何を必要としているかによって常に変化する。