今、市場を支配しているのはフレキシビリティーと即応性の原則である。今日成功している企業は、工業化時代に巨大企業がとった作って売る戦略ではなく、変化する顧客ニーズを把握し、それに素早く応えることに焦点を絞っている。こうしたドラマチックな変化を促進してきたのは情報技術である。情報技術が、情報を収集し、解釈し、それに基づいて行動するための時間的、空間的制約を大幅に削減したからである。

 大企業の多くは、情報技術が生み出したダイナミックな競争環境に対応することによって、急速にダウンサイジングを進め、業務の無駄を省き、アウトソーシングを促進して、自らの活動のコストと煩雑さを削減した。しかし単なる企業規模の縮小が解決策というわけではない。GE社のCEO、ジャック・ウェルチが言っているように、GE社の目標は小規模な会社になることではなく、「わが社の大きな身体に小企業の精神とスピードを獲得する」ことなのである。我々は、企業規模もなお守るべき価値のあるものと考える。官僚主義的硬直性ではなく、市場支配力こそが再び大企業の優れた特性となることができる。しかし顧客ニーズの感知とそれへの即応が支配する世界で生き残るためには、大企業は、我々が〝情報技術による経営(マネジング・バイ・ワイア)〟と呼ぶ戦略について考えなければならない。

 航空業界について見れば、〝電子操縦(フライイング・バイ・ワイア)〟が、1950年代にジェット・エンジン技術の導入を引き金として生じた変化への対応であった。それは、コンピュータ・システムを使って、激しく変化する環境情報に即応して行動するべくパイロットの能力を高めることを意味している。現在では、ヘッドアップ式のディスプレー(パイロットのヘルメット・バイザーに映し出されるコンピュータ合成画像)によって、接近してくる他の航空機や目標物といった、いくつかの重要な環境要素の画像情報が提供される。計器技術と情報技術による支援の下で、とるべき行動の選択が可能になる。例えばパイロットが左急旋回による回避行動等の意思決定をした場合でも、コンピュータ・システムが、パイロットの指示に介入し、航空機の動きを制御するための何千項目もの指令に瞬時に翻訳する。

 パイロットが電子システムで飛行しているとき、それは情報として表現された飛行機を操縦しているのである。それと同じように、情報技術による経営は、情報として表現された事業活動をマネジメントすることによってビジネスを運営する能力である。情報技術による経営の力は、機械化とは別の形でマネジャーの機能を強化する。電子操縦技術はパイロットと飛行機を一体化したシステムに統合する――情報技術による経営についてもまた同様である。このシステムにおいては、パイロットの役割と責任が基幹的部分を占める。自動パイロットすなわち完全な自動化は、穏やかで安定した飛行状態でだけ使われる。このシステム設計では、パイロットの行動にかなりの自由度が与えられる。例えば突然嵐が発生したときにシステムを無効にする場合等が、それに相当する。

 マッハ速度で飛行している飛行機と同様に、企業も、脅威に対して即時に行動をとる能力を持つべきである。激しく変化する今日の事業環境の下では、戦略は限られた時間内に実行されなければ成果を上げることはできない。こうした挑戦的課題に応えるために、トップ・マネジャーは、情報技術を新しい視点からとらえることが必要である。個別的な情報技術システム――電子メール、予約システム、在庫管理システムなど――に投資するのではなく、情報技術による経営に必要となるはずの情報技術能力に投資するべきである。

 理想的な情報技術による経営は、ビジネス全体を表現する企業モデルで遂行される。このモデルに基づいて、エキスパート・システム、データベース、ソフトウエア・オブジェクト等々の技術的なコンポーネントが統合されて、電子操縦と同様の働きをする。経営者クルーが、ビジネスの情報コックピット内の操縦装置を使って会社組織を操縦する。経営者は、コンソール(操作卓)に表示される情報を読み取って行動に移し、外部環境の変化に即して事業計画を調整し、部下に与えた役割、責任の遂行成果を評価し、製造や販売などの部門に指示を出す。

 もちろん企業モデルが誤った現実を表現している――あるいは不完全であったり、時代遅れであったり、間違ったデータに基づいて動いている――場合には、結果は極めて悲惨なことになる。それは3万フィートの上空でエンジンを逆噴射するようなものである。巨大な事業組織体について優れて有効なモデルをつくり上げることは、極めて挑戦的な課題である。しかし、ミセス・フィールズ・クッキーズ社やブルックリン・ユニオン・ガス社、我々がグローバル・インシュアランス社と仮称する金融機関などは、ビジネスの大部分をソフトウェアで表現する可能性を現実のものにしつつある。これらの企業が情報技術による経営を遂行している程度は様々である。ミセス・フィールズ・クッキーズ社の〝コンピュータでの連結(ハードワイヤー)〟によるビジネス・プロセスの自動化の例から、グローバル・インシュアランス社における経営戦略を体系化した完全な企業モデルの例まである。

 多くの企業は、ビジネスの断片的な自動化やバラバラのネットワーク、全社的に整合性・互換性のないプラットホーム(基本コンピュータ・システム)に数十年を費やしてきた。しかし情報経済の中で力を持った分散的なチームは、組織内で起きていることについて統一的な見方をする必要がある。首尾一貫した行動を確保するためには、融通の利かない大きなアプリケーションやネットワーク結合とは異なるものが必要である。企業の意図や〝周りのことをいかにして処理するか〟を体系化した企業モデルによって統括されなければならない。さらに重要なことは、首尾一貫したモデルは〝周りのことを処理する方法をいかに変えるか〟に答えるものでなければならない。ダイナミックに変化する環境に適応する組織能力を確保することは、多くの企業にとって生き残るために不可欠のものとなっている。この組織能力こそが、情報技術による経営を、作って売るという過去の静態的な戦略と決定的に異なるものにするのである。

ビジネスの電子化

 過去30年間に、ビジネス活動の各部分を実行するために情報技術は活用されてきたが、その方法は複雑化する一方であった。1960年代のメインフレーム複合体から現在のクライアント/サーバー・システムへ、給与支払いから現金自動支払いへと、コンピュータはすでにビジネス・プロセスを自動化することによって経営者を支援している。事実ミセス・フィールズ社のような企業は、諸手順を自動化することによって、すなわちソフトウエアとして記述することによって、自社のビジネスを広範囲に表現することができるようになっている。

 小企業においては、〝周りのことをいかに処理するか〟についてのモデルは、ごく少数の人の頭の中にあるのが普通である。こうした状態の下では、上級役員が、フレキシビリティーを幾分か犠牲にして技術的な設計を情報技術の専門家に委ねたとしても、情報技術による経営を目指してビジネスをソフトウエアに表現することは十分に可能である。例えばミセス・フィールズ・クッキーズ社は、明確に定義されたビジネスのかなりの部分をソフトウエアに取り込んでいる。同社の電子化による経営は、電子操縦における自動操縦能力に類似している。