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マーケティングのこととなると原因と結果を取り違える会社が多い。マーケティング活動で販売を促進しようとはせずに、年間販売予測を基に予算を組む。そしてシェアがただちに増えるものと思い込む。しかし、ロイヤリティーの強い固定顧客基盤をつくり上げるには何年もかかるのだ。そして短期的な思考は、そのためのプロセスをおざなりにしてしまうだけである。我々の提案するのはそれとは違った方法、すなわち戦略的マーケティング投資である。マーケティング費用を資本支出と同様に扱えば、つまり時間をかけて売上げを伸ばすための投資として扱えば、強固なライバルに対しても競争優位に立つことができる。
次に述べるシナリオを考えてみてほしい。1970年にRTE-ASEA社(現在はマグネテック社の子会社)がアメリカの変圧器市場に、差別化されていない平凡な製品を引っ提げて参入した。業界の巨人、ゼネラル・エレクトリック社とウェスチングハウス社は、衰退期に入ろうとしていたこの市場をすでに支配していた。参入の遅れたRTE-ASEA社は、定石どおり失敗するものと思われた。しかしこの会社は革新的なマーケティング志向戦略で賭をしてみようと決断していたのである。マーケティングにかける費用を販売プロジェクトに割り当てて、3カ月で成果を上げようとは考えずに、その金を数年間もの期間をかけてシェアを伸ばすための投資として扱った。競争相手に比べて使った費用はずっと少なかったが、RTE-ASEA社はそれまでのサプライヤーに満足していなかった顧客に狙いを定めて、投資の効率を高めることができた。この戦略は成功した。1980年代の後半、この会社は何とか生き延びたどころではなく、市場の40%のシェアを誇っていたのである。
1983年にグラクソ社は潰瘍治療薬品市場にザンタックを投入したが、それは1970年代の後半から事実上独占状態にあったスミスクライン社の製品、タガメットに対する挑戦だった。ほとんどのアナリストは、ザンタックは1980年代の後半によくて10%のシェアだろうと予測した。グラクソ社は積極的な投資志向型のマーケティング・キャンペーンを開始した。そして、それにはタガメットの副作用を列挙する広告も含まれていた。この方法はうまくいった。6年間でザンタックは市場の50%のシェアを獲得した。これに反して、タガメットのシェアは23%に落ちた。
このような成功物語は多くはないが、こうした例が示しているのは、費用志向のやり方を将来のシェアと利益の獲得をもたらす戦略的マーケティング投資に切り替えれば、どんなに恩恵を得られるかということなのである。問題なのは、会社がどれだけの額をマーケティングに費やすかということではない。どれだけ有効にその額を使うかということなのだ。賢い会社はささやかな投資であっても、製品ライフサイクルの適切な段階に最も利益の大きい顧客に的を絞って、効果を上げている。このような方法で、小さな額のカネが時間が経つにつれて驚くべき力となり、大きな額にも匹敵する働きをする。この戦略を「他社の追随を許さない」メッセージを伝える絶え間ない広告キャンペーンと結び合わせれば、市場への参入に遅れた企業でも先頭に躍り出ることができる。
費用と考えるか、投資と考えるか
これまでのマーケティングの定義は、製品開発、価格決定、流通機構の選択、販売促進に焦点を当てていた。しかし「マーケティングの4P」に注意を払うだけでは、もはや競争力を保証するには不十分である。我々が提唱しているのは、マーケティングの定義のしなおしである。これは4Pに加えて分析、目標市場選択、戦略的投資を、顧客を探し確保することによって利益を上げる手段として重視するものである。残念なことには、マーケティングに驚くべき多額を投じているにもかかわらず、投資戦略の必要性に目覚めている企業はあまりにも少なすぎる。
1992年にアメリカの企業は7000億ドルを超える額を販売、広告、販売促進などの活動に費やしている。多くの企業にとって販売とマーケティングの支出は、売上げ1ドル当たりの15%から20%にのぼっている。この同じ1ドルの中の約4%から10%が資本予算プロジェクトに投じられている。資本予算の支出は慎重に検討され、分析され、そして投資として取り扱われているのだが、それよりもずっと多額のマーケティングの費用は期間費用と見なされている。
工場を建設する決定にはどんな審議が行われるかを考えてみよう。必要性が決まり、コストを詳細に調べる。競争相手を評価し、経営資源を検討する。こうして計画ができ上がる。初年度に投資が行われ、何年もかけて償却する、という展望がここにはある。長期にわたる売上げと利益が投資利益率として検討される。
このプロセスを、ほとんどのマーケティングの支出に通じる考え方と対比してみよう。
広告は販売予測で計画された一単位当たりに、どれだけの額がかかるかを基礎とすることが多い。顧客開拓は数週間とか数カ月かかるものと考えられている。そして利益は3カ月以内に得るものとされている。いくつかのハイテク企業で販売マネジャーが必要な販売員の数を決定するのを観察したが、翌年の販売予測を販売員1人当たりに期待する売上げで割って求めていた。このような状況の下では、マーケティングの資源は長期にわたる市場地位と、その期間全体の売上げを決定する要因とは考えられていない。
このような考え方で工場建設の決定が左右されるとすると、工場は設備計画に基づいて建設されることになる。初年度には基礎といくつかの部屋とができ上がり、販売量や利益が許す範囲でその後毎年さまざまの生産ラインや設備を付け加える(あるいは減らす)ことになる。だれだって、このように工場を建設しようとは考えない。しかしほとんどすべての人が、顧客基盤をつくり上げたり市場シェアを確立するために投じられるマーケティングの支出を、このように考えているのだ。その結果マーケティングに投じられたカネが、めったにその目標を達成しないのも驚くほどのことではない。その目標とは、顧客との強固な関係とブランドという資産を基礎に、競争力に勝る地位を築くことである。それどころか企業はそのカネを、適切ではない顧客や仕事に無駄遣いしている。



