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経営戦略とは、価値を創造するための術策である。それは、企業の経営者が顧客に対して価値を提供し、しかも利益を確保しながらそれを行う機会を見出すための知的フレームワーク、概念モデル、基本的考え方を示すものである。この観点からは、経営戦略とは、企業が自社のビジネス領域を決定し、今日の経済の中で真に重要なたった2つの資源、すなわちノウハウと相互関係、あるいは企業の能力と顧客とを結び付けるための方法であるといえよう。
だが、急激に変化する競争環境の中では、価値創造についての基本的な論理も変化する。そして、ある意味でそのことが明確な戦略的思考をより重要にすると同時に、より困難にもしている。
私たちの価値に対する従来の考え方は、工業中心の経済に係る仮定やモデルに基づいている。この考え方では、すべての企業は価値連鎖の中に位置づけられる。川上では、サプライヤー(原材料の納入業者、部品メーカーなど)がインプットを提供する。そのインプットに企業が価値を付加して、連鎖の次の登場人物である消費者(他の企業または最終消費者)に引き渡すのである。このような観点からは、経営戦略とはまず第1に、企業を価値連鎖の正しい場所――正しいビジネス領域、正しい製品と市場のセグメント、正しい付加価値活動――に位置づけるための術策ということになる。
しかしながら今日では、価値についてのこの理解は、それに似た組み立てラインと同様に時代遅れであり、また、それに伴う戦略についての考え方も時代遅れなのである。グローバルな競争、変化する市場、そして新しい技術によって、本質的に全く新しい価値創造の道が開けたのである。
企業、顧客、サプライヤーにとって選びうる選択肢の幅は、ヘンリー・フォードが夢想だにできなかったほど広がっている。
もちろん、選択肢が増えればそれだけ不確実性も増し、リスクも大きくなる。過去のトレンドを延ばして計算した予測は信頼性が低くなってしまう。これまでいつも枝葉末節と思われていたファクターが、企業の主要市場に変化をもたらす中心的役割を果たすようになるかもしれない。また、これまで関係の薄かった分野からの参入者が一夜にして商売のやり方を変えてしまうこともあろう。
このように変わりやすい競争環境の中では、経営戦略は、決められた事業活動を価値の連鎖に沿って並べるということではなくなる。成功する企業は、単に価値を付加するのではなく、価値を新たに創造しなおすようになってきている。彼らの戦略的分析の重点は、企業でもなく、産業でもなく、価値創造システムそのものに置かれる。
このシステムでは、サプライヤー、パートナー企業、提携企業、顧客など、さまざまな経済上の役割を担った関係者が協力して、価値を共同創造する。そして、成功する企業に課せられた主な戦略的任務は、価値創造を新たな形態、新たな登場人物で進めるため、こうした関係者たちの星座(または群、constellation)の中での役割分担や相互関係を再構築することなのである。さらに、根本にある戦略的目標は、企業の能力と顧客とを常により良く適合させることである。
言い換えれば、成功する企業は、経営戦略を体系的な社会革新、すなわち、複雑なビジネス・システムを不断に構築し、構築しなおすこととしてとらえるのである。



