成功する企業とは、急速かつ効果的に進化する企業である。とはいえ革新的企業も真空の中では進化できない。そうした企業はあらゆる種類の資源を引きつける魅力を持ち、協調的ネットワークを創造するために、資本、パートナー、サプライヤー、さらには顧客を誘い込まねばならない。

 この種のネットワークについては、戦略的連携、バーチャル組織等々のタイトルで、すでに数多くの文献が書かれている。だがこれらの分析体系は、変化の根底に流れる戦略的論理を理解しようとする企業幹部にとっては、体系的な助けにはほとんどならない。ましてイノベーションを市場に導入する複雑な企業共同体を育成・発展させるという経営上の挑戦を担う企業幹部に、これらの理論が役立つことはもっと少ない。

 例えばパソコン事業におけるIBMのように、全く新規の企業共同体を創造することができ、しかもその後、その同じ事業の制御と収益性を喪失するというようなことが、どのように起こるのだろうか。急激に変化する環境に対応できるような、共同体のリーダーシップの安定的な構造は、はたして存在するのだろうか。また企業は、技術革新と変化の連続的な波にうまく適応するリーダーシップをどうすれば開発できるだろうか。これらの疑問は依然として答えられないままになっているが、これは大部分の企業幹部がこの問題を旧来の形、つまり企業は業界内で市場シェアを争って接近戦を演じるものだという枠組みの中で捉えているためである。しかし過去10年間の出来事、とりわけハイテク産業における出来事は、この理解の限界を十分すぎるほど示している。

 本質的には、企業幹部は、戦略構築のための新たな発想と手段、つまり技術革新、企業連合、あるいは顧客とサプライヤーに対するリーダーシップについての選択を迫られた場合に、厳しい選択を行うための手段を開発しなければならない。人類学者グレゴリー・パテソンによる、自然体系と社会制度の双方における相互進化の定義は、出発点として有効である。その著書『精神と自然(Mind and Nature)』の中で、パテソンは相互進化を、相互依存関係にある種が、無限の往復的サイクル、つまりその中では"種Aの変化が、種Bの変化の自然の選択のための舞台を設定し、次にはその逆が起こる"というサイクルで進化することと定義している。例えば肉食動物と獲物、あるいは開花した植物と受粉媒介昆虫を考えてみればよい。

 もうひとつの洞察は生物学者ステファン・ジェイ・グールドによるもので、彼は、自然の生態系が環境条件の過度の変化のために、時には崩壊してしまうことがあることを観察している。種の優性結合のために、逆に彼らのリーダーシップが喪失してしまうこともある。その後、新たな生態系が自らを確立し、その場合、それまでは限界的な存在であった植物や動物が中心にくることも少なくない。技術革新の挑戦に立ち向かう今日の企業にとっては、ここに明確な類似と深い意味が読み取れる。

 戦略に対する体系的なアプローチを拡張するものとして、筆者は、1つの企業を単一産業の構成員としてではなく、多様な産業にまたがる1つの企業生態系(business ecosystem)の一部として捉えることを示唆しておきたい。企業生態系においては、企業は新たな技術革新をめぐってその能力を相互進化させる。つまり新製品を支えるために協力的かつ競争的に活動し、顧客のニーズを満足させ、そして最終的には次の回の技術革新を組み入れることになる。

 例えばアップル・コンピュータは、パーソナル・コンピュータ、消費者用エレクトロニクス製品、情報、および通信という、少なくとも4つの産業にまたがる1つの生態系のリーダーである。アップルの生態系は、モトローラやソニーを含むサプライヤーと、多種多様な市場セグメントに存在する多数の顧客に広がった網をカバーしている。

 アップル、IBM、フォード、ウォルマート、あるいはメルクなどは、かつては、あるいは今も企業生態系のリーダーである。時間の経過とともに、中心点は移行するかもしれないが、リーダーの役割はその共同体の他のメンバーから重視される。生態系のすべてのメンバーが、共通の利益を期待する未来を共有する目的で、全員が投資することを可能とするには、このようなリーダーシップが必要なのである。

 とはいえ、より大規模なビジネス環境においては、例えばパソコンにおけるIBMとアップル双方の生態系やディスカウント小売業におけるウォルマートとKマートの場合のように、いずれも複数の生態系が生き残りと優位を賭けて覇を競うことになる。事実、今日の産業転換の大きな原動力となっているのは、個々の企業同士ではなく、企業生態系の間での競争である。企業幹部は、新たな生態系の誕生や、すでに存在する生態系の間の競争を無視することはできない。

 適切な新技術に対する投資、成長事業の拡大に関するサプライヤーとの契約締結、リーダーシップを維持するための決定的に重要な価値要素の開発、あるいは障害を回避するための新たな技術革新の導入など、それがいずれを意味しようと、企業幹部は、すべての企業生態系が通過する段階を理解しなければならないし、それ以上に重要なのは、いかに変化を方向づけるかである。

企業生態系の第1段階:誕生

 1つの企業生態系は、生物学的生態系と同様、構成要素の無秩序な集合から、より構造的な共同体に向けて段階的に移行する。草の繁った大草原が針葉樹の林に引き継がれ、それがさらに広葉樹中心のより複雑な森に移行するような場合を考えればよい。企業生態系は、新しい技術革新によって生み出され、渦のようにその周辺を回っていた初期の資本、顧客の関心、あるいは人材を凝縮していくが、これはいわば適応できる種が、太陽光、水、土壌の栄養素から発生するのと全く同様である。