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ほとんどの企業で研究開発プロセスはお決まりのコースをたどる。まず基礎研究で、研究者たちが、例えば新規ポリマーといった、新しいコンセプトを探索する。次にこの研究領域を専門とする技術者たちがこのコンセプトを発展させ、新絶縁材料といった、このポリマーの応用製品を考案する。そして、製品と製造プロセスを最終的に開発する業務は下流の開発設計者の手へと委ねられる。
この伝統的な研究開発アプローチは、改良・改善の連続体、つまり、それぞれの専門集団グループが開発製品に対し次から次へと貢献していくプロセスであると考えられる。しかし、このような直線的なアプローチでは、特別な専門知識が部門ごとに分割されやすいので、研究開発プロセスのある特定部分がたった1人の研究者に帰属してしまうこともある。
新製品開発にとっては科学上の新発見こそ成功の秘訣であるとするこの伝統的な研究開発パイプラインは、確かにトランジスタやカラーテレビなどの革新技術を生み出してきた。しかし、私はトップ・クラスのハイテク企業、特にコンピュータ業界の多くは、それとは根本的に異なるアプローチをとって新製品を開発してきたと論じたいのである。それは従来のアプローチよりもずっと効率的で、複雑で錯綜した今日の研究開発課題の解決により適したアプローチなのだ。
システム重点型(System Focus)とでも呼ぶべきこの新しいアプローチは、数々のプロジェクトを狭いパイプラインの中に閉じ込めるのではなく、研究開発プロセス全体に統合するものである。メインフレーム・コンピュータ企業12社(AT&T、ブル、DEC、富士通、日立、IBM、ICL、三菱電機、NEC、シーメンス、東芝、ユニシス)の研究開発組織を対象とした我々の研究から、システム重点型企業のほうがより短期間かつ低コストで最良の製品開発を達成できることがわかった。技術的に難しい新製品をタイムリーに量産することがこの10年以上にわたる成功要因であったハイテク業界にあって、このアプローチがとれることはなかなかの偉業である。
我々が分析対象としたのは、これら企業の研究開発組織が1980年代に、ある特定の製品(マルチチップ・モジュール:MCM)を開発する際にとった研究開発アプローチである。メインフレームのMCMには、コンピュータの中枢部分である集積回路が収納、接続されているが、それはシステム全体の処理速度と信頼度に関わってくる。MCMの開発こそ、きわめて複雑で技術的に難しい課題の代表例――まさに、コンピュータ、自動車、医薬品といった、ほとんどのハイテク企業が今日直面している研究開発ハードルの典型なのである。
これらの企業がMCMの開発に際してとった戦略アプローチの多様性からわかったことは、1つの製品とその製造プロセス、そのユーザー・ニーズとは、いわば一体化したシステムを構成している以上、それらをそのシステム全体として開発すべきだということである。この製品システムにおけるどんな変更も(例えば、ある信頼度の高い素材をモジュール基板の生産に応用すること)、設計と製造プロセス全体を変えてしまう。逆に、こういった変更を初めから考慮していなければ、開発が袋小路に行き詰まったり、開発期間の遅延を招いたり、多大な時間が浪費されたりするものだ。したがって、新製品開発の目標とは、強力かつ新しい要素の導入からシステム全体の最適化に及ぶのである。
ハイテク企業の新製品開発は移り気なマーケットや急速な技術革新によってひどく影響を受ける。しかしながら、そのような環境変化に自分たちの研究開発アプローチを適合させることに悩んできたのはこれまでは主として航空宇宙産業や半導体産業のような基礎科学ベースの業界であったが、新しい技術開発の成果を製品の実用化に統合するという課題は、今や多くの産業界でまさに現実的な競合要因となっている。レクサスLS 400車におけるレーザー溶接技術の応用から複合材料の建設産業への利用に至るまで、新しい技術コンセプトは多種多様な製品分野で革新の火つけ役となってきた。このような時代にあって競合優位をもたらすのは、製品開発の迅速化と効率化である。
統合チーム
時間と技術者という研究開発資源の視点から見ると、システム重点型アプローチの瞠目すべき特徴とは、技術統合(technology integration)が中枢的役割を果たしているということだ。これは、新製品の開発にあたって研究開発プロセスそのものを統合化するということであり、様々な技術を「融合」するという意味ではない(もっとも、MCMのように複雑な部品は技術融合から生まれることが多いが)。
システム重点型企業では、マネジャー、科学技術者、開発設計者から成るコア・グループが研究開発プロセスの第一段階から形成される。この統合チームは、様々な技術オプションが製品や製造システムの設計にどんな効果をもたらすかを検討する。実験研究部門からもたらされる新しい研究成果と製造システムの既存能力とを比較考察することが、このチームに課せられたミッションなのである。優れた統合チームは新しい技術を企業の製造ノウハウに適合させるだけでなく、新しい着想を有効利用することによって既存のシステムを強化させるものだ。
事実、我々の研究対象となったシステム重点型企業では、統合チームが開発初期からMCMの技術統合に深く関わっていた。なかには新しい技術を実験するための量産試作工場を建設した企業もあった。これは相当の投資だったが、十分価値のあるものだった。将来の歩留りや製造コストに関して確実な情報をもたらしてくれたからだ。



