もし企業経営全体を考えて、個々の部分を点検するなら、今日最も点検の必要がある部分は物流である。こう言うと、多くの経営者が奇妙な主張だと感じるだろう。私たちはよく「それは単なる物流上の問題だ」という言い方をする。これはまるで、配送に関する面倒な詳細は、「創造的な仕事をする」製品デザイナーや市場戦略のプランナーが主な事項をすっかり決めてしまってから、無愛想で数字に強い担当者に委ねられることだというような調子である。経営首脳陣が注意を払う時間の長さをみても、物流の問題が顧みられることはほとんどない。工場から販売店までの輸送を担当するマネジャーを訪ねたことのある経営者がどれだけいるだろうか。あるいは、倉庫やトラック、さらには配送ルートが顧客にとって最適のサービスとなっているかどうか調べもせずに、倉庫の借料や輸送業者の運賃に至るまで物流コストを削減しようとする経営者がまだどれだけ残っているのだろうか。

 実際には、物流は、顧客にとっての価値を生み出す独創的手段として、コスト節減のための手近な材料として、マーケティング上の大切な考慮事項として、また、フレキシブルな生産を支える極めて重要な関連部門として、経営戦略を考える際の中心的要素となる可能性があるのだ。顧客のニーズは多様であり、企業は顧客ごとに合った物流システムをつくり上げて、より良いサービスを提供し、より多くの利益を上げることができる。確かに、意識しているかいないかにかかわらず、どんな小売店でもメーカーでも、物流特性によって区分されるビジネスごとに競争している。つまり、輸送、保管、荷役、在庫管理等、製品が流れていくチャネル、すなわち物流システムの特性に応じて形成され、あるいは潜在的に形成されうる「物流特性の異なるビジネス(logistically distinct businesses)」ごとに競争が行われているのである。

 それぞれのビジネスにおいて、また価値を創造していく各段階ごとに、その競争は熾烈である。経営者によって、自社の物流戦略をきっちりと練ってつくり上げる者もいれば、それを怠っている者もいる。

サービス:商品の包み紙

 物流は商品戦略の中心課題となったが、それは、商品が単に一定の特色を持ったモノというだけではないことが次第に明らかになってきたからにほかならない。商品は一定の特色を持ち、サービスによって包まれたモノなのである。企業が顧客にとっての価値を生み出し、競争上の優位を維持しているのは、有形の商品を多種揃えて売っているからだけではない。むしろ企業は、顧客は便利さや信頼性、アフター・サービス等を評価するのだという前提に立ち、商品を顧客に応じて多様な方法で提供している。企業と顧客の関係は言葉で表わせない、複雑なものである。ここで重要な問題は、この複雑な関係を一体として管理することなのだ。

 品質を例にとってみよう。丈夫な設計、顧客の仕様に精密に整合するつくりなどは、今や競争に参加するための前提条件にすぎなくなっている。価格についても同様である。商品の品質自体は問題ではなく、その企業と取引しやすいかどうかが問題となってきている。家具屋のトラックが注文したソファーを配送する際の信頼性、自動車メーカーがディーラーのスペア・パーツの注文を受けたときの対応の良さが問われるのである。これらのサービスがすべて商品の包み紙を形成している。企業は、この包み紙を積極的に売り込むことによって市場を切り開くのである。

 そして、サービス差別化の推進役が物流である。例えばコカ・コーラの場合、過去10年ほどの間に商品の種類を様々な方法で増やしたことはよく知られている。ダイエット・コーク、チェリー・コーク、カフェイン・フリーのコカ・コーラといった具合だ。だが、同じ時期、物流システムを絶えず見直し、それに基づいて主要なサービス基準に沿った商品の差別化を図ろうとしていたことはあまり知られていない。最も進んだ例が日本である。今では、日本のコカ・コーラ社商品の消費者は、自分たちの商品の選択、好みによってばかりでなく、自分たちが利用する小売店や自動販売機の物流ニーズによって微妙にセグメント化されるようになっている。例えば、配送の適時性、頻度、伝票処理の支援等、販売店のニーズに配慮しているのである。

 日本のコカ・コーラボトラーズは、長年の間に現場サイドでそのサービスを拡張してきた。配送トラックの運転手が、スーパー・マーケットでは商品を並べ、陳列棚を魅力的に保つ等、重要な販売促進機能を果たすことにより、コカ・コーラ社の商品の差別化に貢献してきた。また、家族経営の小規模店舗では、運転手が伝票の処理や裏の商品置き場の掃除まで手伝ったりすることもある。一般の消費者はこうしたサービスの存在を知らないだろうが、例えばお気に入りの角の店の見た感じとか、あるいはそもそも商売を続けることができるという事実を通じて、同社のサービスを体験しているのである。

 さらに現在、日本のコカ・コーラボトラーズは、この種のサービス基準によりいっそう厳密に従って、顧客をセグメント化しようと試みている。ここで重視されるのは利益である。ボトラー各社は、物流コストに年間6億ドルかけており、他方で営業拡大のための大規模な投資計画がある。ニーズの異なる顧客グループごとに物流チャネルを仕立て直せば、今後10年間、平均で年8000万ドルから9000万ドル節約できると推定される。ここで「厳密に」というのは、顧客グループごとに別々のチャネルを用意することではない。多くの場合、要求される物流サービスの特徴(信頼性、配送頻度、販売促進方法、注文処理等)は、各グループ同士で重なる。重複する顧客の要求を考慮すると膨大な順列、組み合わせができ、顧客をコスト効率の良いチャネルごとにグループ化するのは気の遠くなるような作業となる。

 日本において、コカ・コーラボトラーズの大口顧客となるのは、イトーヨーカ堂、ダイエーといったスーパー・マーケット、セブン-イレブンのようなコンビニエンス・ストア等であるが、彼らは何よりも予定時刻どおりの配送を望んでいる。だが、東京の日中の交通混雑の中では実現困難な要求である。同時に、家族経営の小規模店舗にとっては、予定どおりの配送は販売促進方法に比べて重要度は落ちる。また、自動販売機の管理会社は、商品の補充サービスを必要とする。彼らは通信システムによって、在庫レベルの情報を常に更新してボトラーに伝え、ボトラーのトラックがすべての自販機を回らなくてもよいようにしている。つまり、自社の自販機が売らない商品の輸送コストまで支払いたくないのである。

 したがって、物流の戦略的管理を考える際の最大の問題は、差別化され、合理化された物流システムで利益を確保しながらサービスを提供できるような顧客のターゲット・セグメントを設定することである。この重大なポイントについては、後ほどもう一度述べる。これまでの議論で、物流サービスについても、ワン・サイズですべてのケースに間に合わせることはできないことがわかった。コカ・コーラの缶は1本1本異なった経路をたどる。特定のコカ・コーラは、自動販売機に行くコカ・コーラであったり、伝票処理サービスの付いてくるコカ・コーラであったりする。この区別の中に成功が隠されているのだ(図1「商品はサービスでもある」参照)。