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どこの企業でも顧客に対してより良い商品・サービスを提供しようと大忙しだが、実際のところ、はっきりと目に見える形で顧客ロイヤリティー(loyalty:企業やブランドに対する顧客の忠実度)を向上できた企業は限られている。製造業でもサービス業でも、経営者は直観的に、顧客ロイヤリティーが高まれば利益も増えることを知っている。しかしながら、顧客ロイヤリティーを意識しつつ、その経営を体系的に改革できた企業はごくわずかなのである。
その反対に、大部分の企業の改善プログラムは、行き当たりばったりである。クレジット・カード会社のMBNAが顧客を失う率が業界平均のわずか半分で済んでいるといった成功話を聞けば、そのやり方を1つ、2つ真似てみたりはする。例えば、顧客の離脱を防ぐために専門チームをつくってみる。だが、MBNAの顧客ベースと比べると同質性が薄いのに、利益が上がる顧客とそうでない顧客を区別しないで追いかけていることがある。あるいは、社員の給料袋に「このお金はお客様から頂いたものです」と書いてあるMBNAのやり方を採用しても、その袋の中身であるボーナスを顧客にとっての価値やロイヤリティーの向上に貢献した度合いに応じて支払うことまでは徹底しない。そうした企業は、当然のことながら利益が上がらないことになる。
ロイヤリティーの高い顧客ベースをつくり上げるには、付け焼き刃では駄目だ。その企業の基本的な経営戦略に組み込まれることが必要である。MBNAのようなロイヤリティーのトップ企業は、経営システム全体を顧客ロイヤリティー中心に組み立てたために成功している。彼らは、顧客ロイヤリティーを得るためには、常に優れた価値を顧客に提供することが大切だと知っているのだ。ロイヤリティーのトップ企業は、関係の継続が収入やコストに与える経済的効果を理解しているので、稼いだ金を良質の顧客や社員の獲得・維持のために賢く再投資することができる。このような自己強化システムをつくり、運営していくことが、優れた顧客ロイヤリティーの実現の鍵となるのである。
高い顧客ロイヤリティーは多大な経済的利益をもたらし、多くの産業で企業間の収益性に格差が生じる原因となっている。企業が常に優れた価値を顧客に提供し、ロイヤリティーを獲得すれば、市場シェアと収入が増大し、顧客を見つけ、つなぎとめるコストは低減する。収益が伸びれば、企業は、さらに価値を高めて顧客に対するアピール度を向上させる新しい活動に投資することが可能となるが、ロイヤリティーを強化するためには単に価格を下げたり製品の特徴を追加したりするだけでは足りない。企業の業績が良ければ、その企業は社員の給料も上げられ、それが好循環につながる。給料が上がれば、社員の士気が高まり、責任感も出てくる。社員の勤続年数が延びれば、生産性が上がり、訓練コストも節約できる。社員が仕事全体に満足感を持ち、知識と経験も増えれば、顧客に対するサービスも良くなる。そうすれば、顧客はその企業に忠実でいようと思うようになる。良質の顧客と社員がロイヤリティー最重視の経営システムに組み入れられるようになるにつれ、競争相手の企業は、より望ましくない顧客とより能力の劣る社員で生き残ることを余儀なくされるのである。
ロイヤリティー最重視の経営システムが発揮する力は累積的なものである。この好循環が長く続けば続くほど、企業の財務体質は強くなる。MBNAの場合、顧客維持率が5%向上すれば、収益が5年間で60%増大する。また、これもロイヤリティーのトップ企業であるステート・ファーム保険会社では、顧客維持率がわずかでも良くなれば、会社自身にとっても保険加入者にとっても相当のメリットがもたらされるという。
ロイヤリティーに基礎を置いて競争を勝ち抜く方法は少々複雑かもしれないが、決して神秘的なものではない。まず第一に、経営において、顧客の維持とその他の部分との関係を理解し、ロイヤリティーと収益との間の関係を数量化できるようになることである。そうして初めて、日常の意思決定に費用と便益の間のバランスを体系的に反映させることが可能となる。そのためには、経営上の4つの重要要素――顧客、商品・サービスの提供、社員、評価方法――について再検討する必要がある。ロイヤリティー最重視の経営システムのメリットをフルに活かすには、これらすべての要素について理解すると同時に、注意を払わなければならない。なぜなら、どの要素もシステム全体が機能するために不可欠だからである。いずれかの要素が看過され、あるいは誤解されれば、システムは十分に機能しなくなる。一方、すべての要素が揃えば、それぞれが互いに補強しあい、素晴らしい結果を生み出すのである。
「正しい」顧客
顧客は、当然のことながらロイヤリティー最重視の経営システムの重要な構成要素であり、システムの成功は彼らが長い間その企業と付き合ってくれるかどうかにかかっている。だが、どの顧客も同じかというと、そうではない。企業は「正しい」顧客にターゲットを絞る必要がある。それは、関心を引きやすい相手や短期的に儲かる相手を必ずしも意味しない。長期にわたり、その企業と取引をしてくれそうな相手である。顧客によっては、様々な理由から、どんなに良い商品・サービスであっても、1つの企業に忠実でないことがある。企業にとって難しいのは、そうした類の顧客をできる限り避け、ロイヤリティーを培っていける顧客を選び出すことなのである。
人口統計学的データや過去の購買歴を調べてみると、その顧客固有のロイヤリティーはある程度想像できる。例えば、自分で調べて買う人は、広告を見て買う人より忠実である傾向が強い。また、通常価格で買う客は、安売りのときに買う客より忠実である。自宅所有者、中年層、地方在住者等は忠実である一方、よく引っ越す人はそのつど取引関係を中断するので本来忠実ではない。



