世界のコンピュータ産業は急激な変革を経験しつつある。コンピュータ産業の旗艦であるIBMは、これまでに経験のない損失に揺らぎ始め、1万人規模での人員削減に取り組んでいる。コンピュータ産業界でナンバー2の地位にあるDECの生き残りに疑問があるのはだれの目にも明らかである。データゼネラル、ユニシス、ブル、オリベッティ、ジーメンス、プライムなど他の大手コンピュータ・メーカー名を並べていくと、まるで救急治療室の順番待ちリストを読み上げているようなものである。

 さらに、コンピュータ産業について一般に言われていることはどう見ても不適切である。例えば集中処理がデスクトップ技術によって代替されつつあるということは確かに事実である。しかし、1980年代にデスクトップ標準機の地位を占めてきたコンパックの、最近のトラブルをどう説明すればよいのであろうか。またIBMのPC事業やアジアや西部諸州のほとんどの互換機メーカーが被った打撃はどう説明できるのだろうか。

 日本も今度ばかりは無罪放免というわけにはいかない。日本の卓越した製造能力が欧米のコンピュータ産業を席巻してしまうのではないかという不安は、今のところ現実のものにはなっていない。確かに日本企業は多くの工業製品市場で優位を確保してきたが、今ではシェアを失いつつある。そうした事態はラップトップ・コンピュータなど市場支配が期待されていた製品でも生じている。エレクトロニクスやコンピュータの主要企業の収益は、欧米企業と同様にその輝きを失いつつある。

 ハードウエアからソフトウエアへの付加価値源泉の継続的移行を展望する説明は、重要な事実を含みながらも、いまだ極めて限定された範囲でのみ妥当する。ロータスは業界でも最大の顧客データベースを持っている企業のひとつである。それにもかかわらず、同社は幾度となく荒波にさらされている。一方、ボーランドは相変わらず損失を出し続けている。

 イノベーションや設計のスキルが成功のための絶対的な秘法なのではない。LSIロジックやサイプレス・セミコンダクタは、業界でも最も革新的な優良企業に含まれる企業であるが、それでもなお損失を出している。MIPSのように設計に特化し、"工場を持たない""コンピュータに依存しない"企業も業績は芳しくない。MIPSは、友好的なテークオーバーによって辛うじて倒産を免れている。チップス・アンド・テクノロジーズもまた極めて困難な状況に置かれている。

 政府による保護と助成はいずれも救いの神にはならない。ヨーロッパのコンピュータ産業は世界で最も多くの補助金を得ているが、それでも世界のコンピュータ市場で重要な役割をほとんど持たない。

 コンピュータ産業における競争優位を確保するための要素として、規模、政府の支援策、世界的レベルの製造能力、デスクトップ市場での強力な地位、優れたソフトウエア、最先端の設計や革新のスキル等が一見重要であるように考えられる。しかし、これらの要素を個々単独に持っていたとしても、また組み合わせて持っていても、競争優位確保に十分ではない。

 情報技術の競争における成功と失敗を説明するためには、新しいパラダイムが必要である。簡単にいえば、競争における勝利は、広汎で変化の速い競争環境に対する独占的アーキテクチャーの支配権を確立する企業の頭上に輝く。

 アーキテクチャー戦略は情報技術において最高に重要なものである。マイクロプロセッサ、その他の半導体部品は驚くべき速さで改良されているからである。安価なプロセッサの価格性能比はほぼ18カ月ごとに2倍になっており、それはまた情報産業のいっそうの拡大を促し、機械の小型化と低価格化を促進している。大量生産される低価格・高性能のコンポーネント(構成要素)のラッシュに、単独でついていけるメーカーはない。したがってユーザーは、社内のバラバラのシステムを相互につなぐことを強く要求している。アーキテクチャーはシステムに秩序を与え、相互の連結を可能にする。