-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
-
PDFをダウンロード
今日、世界経済をめぐる議論といえば、北米、ヨーロッパ、日本が論議の中心となるのが普通だ。一方、エコノミストたちは通例アジアを、日本、急速な変化と勃興の只中にある中華人民共和国、および、台湾、香港、シンガポールなどの工業化「ドラゴンズ」諸国、の3つに分けて考える。しかしこうした一般的な経済的定義はパシフィック・リムの現実にマッチしない。事実、中国人のビジネス――その多くは中華人民共和国の外に位置するものだが――は世界第4位の経済パワーを成しているのである。
まず、「中国」なるものの定義自体から考えてみる必要がある。我々が今日、中国人と考えているものは、地理によってではなく、共有の伝統によって固く結び付いた一連の政治的・経済的システムを含み込んだものなのである。幾多の世代にわたって、出国した中国人企業家たちは、家族、氏族のネットワークのなかで安楽に活動し、国境をまたいださまざまなビジネスの間によりいっそう強固な結び付きを生み出すための基盤を敷いてきた。そして、東アジア、アメリカ、カナダにとどまらず、さらに世界各地に展開する中国人所有ビジネスはますます、私が「中国人コモンウェルス(共通の利益で結ばれた共同体)」と呼ぶところのものの一部となりつつある。
どこかの1国あるいは大陸をベースとするわけではないこのコモンウェルスはなによりもまず、企業家同士の関係からなる1つのネットワークなのである。レストラン、不動産、プラスチック・サンダル・メーカーから、半導体メーカーまでを含み、その規模も5、6人の家族から、数千人の工場まで大小さまざまの企業を抱え込む中国人コモンウェルスは、あまたの個人事業から成り立っているが、にもかかわらず、それはある共通の文化を分かち持っている。
それは、多くの欧米多国籍企業が自身の組織のなかにつくり出そうと努めてきたような類のグローバル・ネットワークともいえるのである。いまや、その同じ欧米企業がアジアでのジョイント・ベンチャーの相手を探し求め、いよいよ力を強めつつある中国人ネットワークに食い込む道を模索しつつある。多くの多国籍企業――アジアをベースとするか否かを問わず――にとって、いまやこのコモンウェルスと真剣に取り組むべきときが到来したのだ。
まず初めに、中国人基盤の経済を抱え込む国々が驚くほど巨額の資本余剰金を手にしていることを指摘する必要がある。世界最小の国のひとつである台湾は世界最大の外貨準備を持っている。人口270万人のシンガポールの外貨準備は340億ドルを超える。さらに、中国人家族、氏族の連合体からなるプライベートで非公式な資本市場が控えているが、そこにおいては、商業銀行、専門のベンチャー・キャピタル会社、あるいは政府の投資機関などの介入なしに、新しいベンチャー活動に金融資産が配備されているのだ。
そのうえ、中国人企業家ネットワークと日本は、アジアにおけるきわめて異種な2つの統合勢力を代表している、という点を指摘すべきだろう。日本人と異なり、中国人コモンウェルスは、コンピュータ用語で言うならば、「オープン・アーキテクチャー」を備えているのである。それは、情報、ビジネス・コネクション、原材料、低水準の労働コスト、さまざまな環境下の異種のビジネス慣行などのローカルな資源にアクセスすることができる、ということを意味する。日本の「系列」とは異なり、台頭中の中国人コモンウェルスは、相互に連関し合いながら、にもかかわらずオープンなシステムなのであって、多くの面から見て、グローバル・ビジネスを遂行するための新しい市場メカニズムを提供してくれるものといえる。
このようなわけで、台湾の中国人企業家を通じて、中華人民共和国の市場に到達するというようなことも、いまや可能となったのである。アウトサイダー(非中国人)も香港、シンガポールのビジネス・コミュニティーを通じて東南アジア市場にアクセスすることができるであろう。究極的には、中国人企業家も非中国人企業家も、北米やヨーロッパの中国人ネットワークを通じて、それら地域のビジネス機会を利用することが可能となるであろう。
もちろん、中国人企業家同士のネットワークの多くには、アウトサイダーはまだほとんど加わっていない。中国人ビジネスに伝統的な小規模志向、家族志向が彼らの成長を阻害してきたのは確かである。「中国のIBM」たらんとすることを公然の目標に掲げてきた(共同創立者のワン・ルンナンが1989年、中華人民共和国から亡命するまで)北京ストーン・グループは、中国人のビジネス慣行が過去20年間にどのように進展し、また、そうした企業がいまなおどのような困難に直面しているかの一例を提供してくれる。台湾のエーサー・グループ、シンガポールのピコ・グループなどの企業は、古いものと新しいもののブレンドに成功した例である。
中国人の新しいマネジメント・モデルは――それを支えるコモンウェルスも同様だが――伝統的な中国的価値観と、柔軟性、イノベーション、アウトサイダーの同化を奨励する欧米的慣行との双方に根差したものである。
価値観のこうしたシフトは、中国人ビジネスマンが自分自身と自分の仕事をどのように見ているかということの変遷のみならず、台頭しつつあるネットワークの拡大をも意味してきた。そして、時の経過とともに、経済的自己利益という新しいイデオロギー――これは伝統的中国ビジネスにのしかかる政治的・氏族的制約を真に乗り越えるものだが――は、コモンウェルスのより大々的な統合につながることだろう。



