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デルコンピューターは、何もないところからいかに飛び出してきて、コンパックをはじめ他のパソコン業界のリーダーに打ち勝ったのか。ホームデポの競争相手は、同じような商品を売っているのに、なぜこの日曜大工用品の急成長小売業にシェアを奪われているのか。ナイキは、背後に何の名声もないポッと出の会社だが、スポーツ・シューズ市場で長い間確固とした業績を上げてきたアディダスを、いかにうまく追い越してしまったのか。
3つの質問全部について、答えは3つとも同じになる。第1に、デルコンピューター、ホームデポ、ナイキは、それぞれの市場で顧客にとっての価値を再定義した。第2に、この3社は、競争相手より価値をより多く提供できる、強力かつ凝集力のある事業システムを構築した。第3に、そうすることによって、彼らは競争相手の及ぶ範囲以上に、顧客の期待を引き上げた。換言すれば、これらの会社は、顧客が価値を認めるものを変え、それを提供する方法を変えた。そのうえで顧客が期待する価値の水準を押し上げたのである。
企業が価値を売ることによって成功するというアイデアは新しいものではない。新しいのは、多くの市場でいかに顧客が価値を定義するかである。過去には、顧客は製品やサービスの価値を、品質と価格のある組み合わせをもとにして判断した。今日では、対照的に、価値には購入の便利さであるとか、アフターサービスの良し悪し、信頼性等々が含まれ、顧客は価値について拡大したコンセプトを持っている。だとすると、今日の競争では、企業はこうしたすべての異なった顧客の期待に対応しなければならないと考えるかもしれない。しかし、それは違う。
過去10年間に、業界リーダーとなった企業は、事業の焦点を広げるのではなく、狭めることによって、その地位を得た企業が多い。そうした企業は、3つの価値規準――卓越した業務運営力、顧客認識力、あるいは製品でのリーダーシップのどれか1つに沿って、優れた顧客価値を提供することに集中してきた。彼らは、他の2つでは業界標準に合わせながら、一方これらのどれか1つの規準でチャンピオンになってきた(2つ以上の分野で卓越した企業についての議論は、囲み"2つ以上の規準で卓越している企業"を参照のこと)。
2つ以上の規準で卓越している企業
市場リーダーは、典型的には1つの価値規準で卓越しているが、少数の並外れた企業は2つまでもマスターして先行している。その際に、彼らは各々の価値規準が要求する業務運営モデル間に内在する問題を解決している。10年前トヨタは業務運営の卓越性戦略を成功裡に追求したが、今日同社は業務運営の卓越性における名人位を保持しつつ、そのうえ、自動車技術上のブレークスルーを通じて、製品リーダーシップでも同様に先行している。
テキサスに本拠を置き、主として軍隊にいる人たちを対象とした保険業のUSAAは、顧客認識力と卓越した業務運営力を同時に手中にしている。USAAには卓越した業務運営力に優れた会社が望むもののすべてがある。集中化、高度なオートメ化、それに信じられないほどの行き届いた規律である。同社の膨大でしかも最高の情報システムは、情報技術者の望みが現実のものになったものである。ほとんどの書類を排除することにより、同社では迅速かつ即時の対応が可能になっている。USAAでのこの情報システムこそがプロセスである。
他の保険会社(思いつくのはノースウエスタン・ミーチュアル&オールステート)だが、同様に見事な業務運営を確立してきた。しかし、USAAは同社のサービスを特定の顧客のニーズに合わせるという優れた仕事をすることで模範を示している。USAAは同社の顧客ベースを他の顧客特性とともに、ライフステージ(顧客が一生のうちのどの時点にいるか)で細分化し、そのうえで製品、サービス、さらにこうして細分化した顧客それぞれへ対応するためのサービス・アプローチを開発している。その実行に加えて、USAA社は顧客認識力を修得している。
オフィスサプライの大手であるステープルズもまた、卓越した業務運営力と顧客認識力の両方に精通している。ステープルズはオフィス用文具の販売全般にわたって、最低の純着荷コストを達成している。同社はさらに特定の市場、つまり従業員50人以下の会社に顧客認識力を集中させている。この市場セグメントへの認識力をさらに深めるため、同社はクラブを作り上げた。顧客はそのクラブへ無料で加入し、回転の早い品目については5%の値引きを受けられる。値引きを得るには、顧客はクラブカードを提示しなければならないが、それはステープルズが顧客ごとに販売を追跡できることを意味しており、さらにそれは、同社がその市場を満足させるのに使用できるあらゆるデータを提供してくれる。店舗のマネジャーは、既存の顧客を維持することによって、インセンティブを得ている。
トヨタ、USAA、ステープルズは今日稀な例外である。しかし、1つの基準の修得は、その会社が勝負していくうえで結局は必要となるミニマムである。見込みとしては、将来の大勝利者は、2つを修得した者になるだろうということである。
卓越した業務運営力で、私たちが意味しているのは、信頼できる商品やサービスを競争価格で、しかも無理なく、不便をかけずに顧客に提供することである。例えば、デルは卓越した業務運営力における達人である。第2の価値規準である顧客認識力は、市場を正確に細分化してターゲットとして定め、そのうえでこうした特定市場の需要に売り物をきっちりと対応するように、合わせることである。顧客認識力に秀でた企業は、顧客についての詳細な知識と業務運営の柔軟性を結び付け、製品をあつらえて作ることから、特別な要求への対応まで、ほとんどどんなニーズにも迅速に対応できるのである。結果として、これらの企業はびっくりするほどの顧客のロイヤリティーを生み出している。例えば、ホームデポは、この業界の他のどんな会社よりも、顧客が欲している製品や情報を、顧客に正確に提供することにおいて秀でている。さらに第3の規準である製品でのリーダーシップとは、顧客の製品の使用と利用を高めるような、優れた特長を持った製品とサービスを顧客に提供すること、またそれによって競争相手の製品を陳腐化してしまうことを意味している。ナイキはスポーツ・シューズの分野で、製品のリーダーシップが卓越している。
1つの価値規準の境界を拡張し、その他の2つの分野では業界標準に達している企業は、競争相手が追いつくのが大変だと思うようなリードを確保している。これは、大部分はこうした業界リーダーたちが、全体の業務運営上のモデル――すなわち企業文化、事業プロセス、管理システム、コンピュータの使用要綱――を、その1つの価値規準に使うために組み上げてしまうからである。彼らは顧客に提供したいと思うことを熟知したうえで、それを徹底するために、なすべきことを考え、解決している。さらに、背後にある組織を変化させるという困難なことをしながら、わずかな調整にも集中してさらなる価値を生み出している。集中のできない企業がこのリーダーシップを獲得するには、現存するプロセスをただ単にぐいとねじるだけでなく、それ以上のことをしなければならない。
同じ価値規準を追求する企業は、業界の如何にかかわらず驚くほどの類似性がある。例えば、フェデラル・エクスプレス、アメリカン航空、それにウォルマートにおける事業システムは著しく類似している。というのも、これらの会社はすべて卓越した業務運営力を追求しているからである。ある従業員がフェデラル・エクスプレスからウォルマートへと転職した場合、オリエンテーションが終われば、まるで家でくつろいでいるように感じるだろう。同様に、ヘルスケア商品や薬品でのジョンソン&ジョンソン、スポーツ・シューズでのナイキのような、製品のリーダーシップを持つ企業のシステム、組織、文化は互いに似ているように見える。しかし、2つの価値規準の間には、類似性はない。ウォルマートからナイキに社員を出したとすると、彼らは、違った惑星に来たように思うだろう。同質性は同じ価値規準でのリーダーだけの間で存在しているのである。凡庸な企業は、自社と同じ業界の別の凡庸な企業以外とでは、区別がつかないものである。
価値規準について我々が得た結論は、それぞれの業界で成果期待を再定義した40社にのぼる3年間の研究に基づくものである。我々はこの研究を通じて、各々の価値規準が必要とする組織と、その理由を明確にしてきた。
卓越した業務運営力
卓越した業務運営力という用語は、生産と製品・サービスの供給に関する固有の戦略的なアプローチを示すものである。この戦略を信奉する企業の目的は、価格と便利性で業界をリードすることである。卓越した業務運営力を追求する企業は倦むことなく、間接費を極小化し、生産の中間段階を排除し、取引やその他の"摩擦"から生じるコストを軽減し、さらに機能と組織の境界にまたがる事業プロセスを最適化する方法を求める。こうした企業は競争価格で最も不便のない、製品やサービスの供給に集中している。また事業全体をこうした目標に合わせて構築しているので、他の価値規準を追求している企業のようには見えないし、またそのように動いてもいない。
デル・コンピューターは、このような集中した会社の1つである。卓越した業務運営力に集中することによって、パソコン購入者に、パソコンを簡単に、しかも安く買うために、品質や最高の技術を犠牲にする必要がないことを示した。1980年代の半ば、コンパックがIBMよりもより安く、より早くパソコンを作ることに集中していたとき、大学生であったマイケル・デルは、製品そのものではなく、配送システムに集中することによって、IBMとコンパックの両方を追い抜くチャンスがあるとみた。デルは、テキサス州オースチンの寮から、徹底的に違った、しかも業務運営力の追求においてははるかに効率的な業務運営モデルを引っさげて、この競争場面に突然飛び込んできた。



