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10年以上前から、ビジネス界を展望する人たちは新たな経済の到来を予測してきた。周囲の世界の最近の変化をわが目で見て、ますます多くのマネジャーたちはその新しい経済の確かな到来を実感している。
ゼネラル・モーターズ(GM)はグローバル競争の嵐にもまれて、上級マネジメントの陣容のほとんどすべてを一新した。IBMは急速な技術の変革と、より機敏な行動のとれる新顔の中小会社の出現に体質のもろさをさらけ出して、組織の分断という辛い道をとりはじめた。シアーズは市場の分化とコスト意識の強い競争相手に行く手を阻まれて、変わりゆくビジネス環境の中で本来の小売業で成功する道を改めて探っている。企業のいろいろな場面で、あらゆる産業の、そしてあらゆるレベルのマネジャーたちが不慣れな環境と新しい競争の圧力に、何とか順応しようと必死に努力している。
手近にまず打つ対策はおなじみの企業変革のメニューである。いわく、トータル・クオリティ・マネジメント、絶えざる改善、ダウンサイジング、外部資源の調達(outsourcing)、ビジネス・プロセスの再構築、中核となる資格や能力の重視、といった具合である。同じような類のプログラムがほとんどの企業に目白押しの状態である。
それでもマネジャーたちがまだ何か欠けていると感じているとしても、責められないだろう。こうしたプログラムをすべて合わせても、完全無欠とは言い難いのである。各企業は「変革のプロセス」を標榜していても、企業の本質そのものを変えてはいない。マネジャーたちは新しいプログラムを設けても、その運用にあたるより大きな問題、すなわちプログラムをはめこまなければならない背景をまだ理解していないのである。
要するに、マネジャーたちはさまざまな解答を見せられてきたが、肝心かなめの問いをだれも発していないのだ。全く新しいビジネス競争の中でマネジャーになるとはどういうことか、という問いである。あるいはもっと簡単に言えば、新しい経済の何がそんなに新しいのか、ということである。この問いに答えるには問題の核心へと突き詰めていかなければならない。新しい経済の論理を読み取り、マネジャーの新しい仕事を明確にし、新しい経済におけるマネジメントの方法をつかむためには、単なる変革のプログラムだけではだめなのであって、頭を切り替えなければならない。
アメリカ国内で有数のビジネス評論家や企業のエグゼクティブが考察したさまざまな本やレポートは、新しい経済の経営理論を解き明かそうとする総合的な試みを表すものである。その出発点は企業競争、マネジャーの運営管理、ビジネスのやり方に今や質的な移行が起こっているという基本前提である。あるレベルでは、そうした質的な移行は――例えば、大量生産、大量販売、大規模組織から、即応体制を備えた生産、適所販売、ネットワーク組織への移行など――おなじみの要素のものである。しかし、こうした簡単な言い方では、変革の力やマネジャーにとっての計り知れない意味を完全に捉えてはいないのである。
新しい経済への動きはマネジャーを新たな旅へと連れて行く。その旅はテクノロジーで始まり、最後は否応なしに信頼へと導いていく。テクノロジーと信頼という組み合わせがパラドックスのように聞こえるとすれば、それは新しい経済がパラドックスの上に成り立っているからである。
つまりこういう論理である。情報とコミュニケーションにおけるテクノロジーの変革によって、知識が競争上の新たな資力となった、ということである。しかし知識はそのテクノロジーを通じてのみ流れるものである。知識は人々の中――知識労働者(knowledge worker)と彼らの居場所となる組織の中――にある。したがって、新しい経済におけるマネジャーの仕事は、知識労働者が学習できる環境――自分自身の経験から学び、仲間同士や顧客、そしてサプライヤーやビジネス・パートナーから学び取れる環境――をつくることである。
そのような学習を可能にさせるマネジメント手段の第一は会話である。しかし会話が仕事になると、一筋縄ではいかなくなる面が出てくる。例えば、個人の性格が作業の前面に持ち込まれる。新しい経済におけるマネジャーの仕事が不安を取り除き、信頼を育て、しかも新しい知識を生み出すような仕事の上での会話を促すことであるなら、個人の人間性、人格、アイデンティティがマネジメントの上で最も重要な資産だということになる。
新しい経済は、マネジメントと仕事についての旧来の前提を一掃しながらも、代わって舞台の中心に据えるのは、古くからの人間の美徳と真実である。新しい経済が結局はそれほど新しいものではないということが、この経済の究極的なパラドックスだといえるかもしれない。



