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人事のこととなると名人になる者がいるのはなぜか。彼らは新しい地位に就けた者の仕事ぶりを事前に知るための魔法を習得しているのだろうか。人を的確に評価するための公式を手に入れているのだろうか。
人事に関する原則を明らかにするために、長年にわたって、有能な経営管理者の仕事ぶりについて研究を進めてきたピーター F. ドラッカーは、これらの疑問に対して"ノー"と言っている。
人事の成功に不可欠なものは魔法ではない。必要とされている能力が何であり、与えられた人材の強みと弱みが何であるかを理解することである。魔法ではない。単なる経営管理である。
トップ経営陣は人事と人事管理にもっとも多くの時間を取られている。そして、それは正しい。
人事ほど尾を引く決定はない。また人事ほど元に戻すことの難しい決定もない。しかも現実には、あまりにもしばしば間違った昇進や異動が行なわれている。どうひいき目に見ても、人事の打率は3割3分3厘といったところである。3分の1は正しく、3分の1はお粗末であり、3分の1はまったくの失敗である。
経営管理の世界において、このような打率が許されている分野はほかにない。しかも人事こそ、このような低打率がもっとも許されざるべき分野なのである。完全無欠は無理であっても、10割に近い打率をあげなければならない。しかも経営管理において、人事こそ、もっともよく知られているはずのお馴染みの分野なのである。
もちろん、完全無欠に近い人事を行なっているトップ経営者もいる。
真珠湾攻撃のころ、アメリカ陸軍の将軍は皆、かなりの高齢に達していた。若手には、戦争経験も指揮経験もなかった。ところが第2次大戦が終結を迎えたとき、アメリカ陸軍は、史上最高、世界最高の将軍団を擁するにいたっていた。陸軍参謀総長のジョージ C. マーシャルが、自ら1人1人の人事を行なった結果である。もちろん将軍人事のすべてが大成功であったわけではない。しかし、まったくの失敗は皆無であった。
アルフレッド P. スローン・ジュニアは、ゼネラル・モーターズ(GM)の経営にあたった約40年の間、経営管理陣の人事はすべて自ら行なった。技術、生産、経理の経営管理者から、もっとも小さなアクセサリー部品工場の技師長にいたるまで彼自身が人事の決定を行なったのである。
今日ふりかえって見るならば、スローンのGM経営は、価値観も視野も狭すぎたということがいえよう。たしかにそのとおりである。彼はGM内部の効率のみに目を奪われていた。しかし人事だけは、完全にして無欠だったのである。



