国際市場で競争して成果を上げるには、どの国の企業もその競争優位を倦まず弛まずイノベートし、グレードアップしなければならない。イノベーションもグレードアップも、従業員の技能や供給業者との関係といった無形の資産や、物的な資産に、投資を持続させることで得られる。今日では競争の性質が変わり、グローバリゼーションの圧力が高まって、投資が競争優位の最も重要な決め手となっている。

 にもかかわらず、アメリカの投資資本を配分するシステムは、企業内のものも企業間のものも、共に成果を上げていない。このため広範囲の産業にわたるアメリカ企業が、グローバル競争で極めて不利になり、遂にはアメリカ経済の長期的な成長まで脅かされている。

 これがハーバード・ビジネス・スクールと産業競争力委員会とが主催して、25人の学界専門家による18の研究論文にまとめられた、2年間にわたる研究プロジェクトの成果の核心である。本稿ではそうした研究論文と私自身の研究に基づき、アメリカの投資問題の原因をあらゆる角度から分析し、提唱する治療法を提示する。

 アメリカの経営評論家は最近の競争力不足の責任をさまざまな欠陥に求めている。短期的な視野、効率の悪い企業経営、高い資本コストなどである。しかし実際にはこうした欠陥は、資本投資システム全体の運用というもっと大きな問題から生じている現象なのだ。この投資システムには株主、融資者、投資マネジャー、企業役員、経営者、従業員が含まれ、こうした人たちすべてが、政府の規制や一般的な経営慣行で決まる状況の下で、投資の選択をしている。アメリカのシステムでは株主、企業、経営者の間に利害の相違ができ、これが最も成果の大きい企業投資へ向かう資本の流れを妨げている。それに劣らず重要なのは、このため個人投資家や企業の利害が、経済や国全体の利害と一致しなくなっていることだ。

 投資資本を配分するアメリカのシステムには優れた点も多い。能率がよく、柔軟性があり、対応が早く、企業の利益率が高い、などである。しかしこのシステムは経済全体の中では資本を最も生産的に運用できる企業に向け、そして企業の内部では最も成果の上がる投資プロジェクトに向ける、効率よい働きはしない。その結果多くのアメリカ企業では投資が少なすぎるが、特に研究開発、従業員教育や技能開発、情報システム、組織開発、サプライヤーとの関係など、競争力に不可欠な無形の資産や能力に対してそれが著しい。同時に多くの企業は、関連性のない買収など、財務的や社会的に見返りの少ない投資に資本を浪費している。

 アメリカのシステムが持つ問題は、ほとんどこのシステム自身が生み出したものである。次々と出される規制などの施策が狙いどおりの成果を出さないという経過が長く、その間企業所有のパターン、投資を選択する方法、企業内部の資本配分プロセスの性質、といった領域で変化が起きてしまった。同時に競争の性質も変わり、ますます複雑になる無形資産の投資が重視されるようになった。これこそアメリカのシステムでは最も不利になる類の投資である。

 さらにもう1つ、アメリカ経済がグローバル競争の波に激しく洗われるようになって、投資の重要性がさらに増し、一般的なアメリカ企業が全く違った資本配分システムを持った国に本社を置く企業と接することとなった。アメリカのシステムと外国のシステムとをこのように比較すると、現在のやり方を続けるのが実に危険なことがはっきりしてくる。

 アメリカのシステムが何よりもまず第1に優先するのは、自分の株の目先の値上がりに関心を持ち、そしてそのためにはアメリカ企業の長期的な業績すら犠牲にしてもよいと考える、株主の目標である。イノベーションや活力、生産性の向上につながる道ではないとしても、アメリカのシステムには柔軟性があり、産業部門間で資源を素早く移転させる力がある。このアメリカのシステムは多額の報酬を生み出すので、一部の産業ではさまざまのやり方で投資が過小や過大に流れる圧力を加えてはいても、一部の産業ではアメリカの繁栄に貢献している。

 この問題にはシステムとしての性質があるので、アメリカの経営システムの主な構成要素を検討する必要も出てくる。つまり自律性と分権化の重視、財務統制と投資の意思決定のプロセス、刺激的な報奨制度の多用、である。このシステムの改革に失敗すれば、アメリカ経済の中核となる産業部門で競争力の衰退が続くことは間違いない。

 それでも我々が行ったアメリカの資本配分システムの分析の結果、アメリカには今なお競争力の大きな可能性があることは明らかである。アメリカには膨大な投資資本のプールがある。問題はこの資本をどう配分するか、つまりどういう割合でどういう種類の投資に配分するか、ということである。第1に検討すべきことは、過大な、あるいは過小な投資がないか、ということだ。第2は1つの投資が関連する投資で補完されているか、である。つまりさまざまの投資形態の間に関連があるか、ということだ。例えば新工場などの物的資産は、従業員教育や製品改良などの無形資産に対する投資が並行して行われなければ、本来の生産性の水準に達しないかもしれない。第3の検討事項は企業の投資が外部にも流出して、社会の利益にもなるか、ということだ。例えば企業が従業員やサプライヤーのグレードアップに投資すると、自社の競争力を強めるばかりでなく、よく教育された労働者と強さを増したサプライヤーが生まれ、それによってこの企業は将来全く新しい戦略をとれるようになるかもしれない、ということである。広範なさまざまの形態にわたって適切な投資を奨励し、こうした社会的な利益を生み出している国は、その資本プールをテコにして、強力で競争力のある国民経済を築くことができる。