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アパレルから航空宇宙産業、鉄鋼業からソフトウエア産業に至るまで、技術革新は加速度的に進行している。もはやいかなる企業も、新世代の技術を無視して、なおかつ、競合力を保ち続けることはできない。こういった時代の要請に加えて、技術革新はますます業界の壁を越えつつある。例えば繊維業界が開発したニューファイバーが建築資材や医療機器へと応用される可能性がある。しかしながら、多角化技術を応用して市場構造を一変させる新製品を創造することに長けている企業がある一方で、多くの企業は、かくもめまぐるしく変化しているビジネス環境では役に立たない技術戦略に依存しているために、四苦八苦しているのが現状である。成功と失敗の違いは、研究開発にどのくらい投資するかではなく、それをいかに定義するかということから生じるのである。
研究開発には2通りのタイプがある。旧世代の技術を置き換える研究開発(突破型)と既存の技術を組み合わせて新しい混成(ハイブリッド)技術を生みだす研究開発(融合型)である。前者が真空管に対する半導体、レコードに対するCDといった例に見るように、線形的で段階的な技術の置き換えであるのに対し、後者は非線形的、相補的、そして協力的である。つまり、それまでは別個の技術領域に分散していた1つ1つの技術改善をブレンドすることにより、市場を激変させる新製品を創出するのである。例えば、光学とエレクトロニクスが融合したオプトエレクトロニクスは光ファイバー通信システムの母体となったし、機械技術と電子技術の融合によって生まれたメカトロニクス革命は工作機械産業を根本的に変えてしまった。
「1つの事業には1つの技術基盤」というかつての格言があてはまらない世界では、技術突破型戦略だけでは不十分である。企業の技術戦略にはどうしても突破型と融合型の両方が必要とされる。突破型に頼ると失敗するのは、機械技術と電子技術の融合による技術革新といった可能性を無視し、エレクトロニクスだけに賭けるといった具合に研究開発の活動領域をあまりに狭く限定してしまうからである。多くの欧米企業は依然として技術突破型である。その理由としては、外部の革新技術に対する不信感、技術者の傲慢、研究成果の共有化に対する嫌悪感などが複雑に絡んでいるものと思われる。技術突破型というアメリカの伝統は、防衛産業主導型の技術政策に一部起因している。国防総省は大学研究を資金援助し、その製品開発をごく少数の防衛専門の契約企業に委ねている。この歴年的なプロセスからは技術の伝承や協力体制が生まれる術がない。
技術融合を熱烈に支持してきたのは日本の有力ハイテク企業である。この20年間にわたり、ファナック、日産、日本電気(NEC)、シャープ、東レといった企業は独自の融合型技術を開発し、それを研究および製品開発戦略に統合してきた。いくつか例を挙げてみよう。
□60年代後期から、日本電信電話(NTT)、NEC、日本板硝子、住友電工など、数多くの日本企業は、ガラス技術、ケーブル技術、電子技術の融合に着手し、日本初の光ファイバー製品を開発。今日ではこれら日本企業は全世界の光ファイバー機器市場において圧倒的なシェアを占めている。
□70年代にメカトロニクス業界の盟主となったファナックは、電子技術、機械技術、材料技術を融合し、廉価でキャビネットの引き出しほどのサイズのコンピュータ化数値制御装置(NC)を開発。ファナックは今日、同製品の全世界市場リーダーであり、日本でも有数の高収益企業である。
□80年代初期、シャープは電子技術、結晶技術、光学技術を融合し、ポケット計算機用液晶表示ディスプレー(LCD)の実用化に成功。今日20億ドル以上と評価される全世界LCD市場のうち38%のシェアを獲得している。しかもこの市場は1995年までに3倍以上に膨れ上がると推定されている。
いずれの場合でも、技術の融合から、単なる寄せ集め以上の成果が得られている。技術融合では1プラス1が3になるのだ。技術融合が技術の置換というよりは結合である以上、そこにはこれまでとは別の思考様式と経営戦略が要求される。この10年にわたり研究対象としてきた日本企業を見ると、以下の3つの原則が技術融合にとって本質的なものであることがわかる。
(1)需要表現:市場が研究開発目標をリードするのであって、決してその逆ではない。例えば、より安く、より小さく、より信頼性の高い数値制御装置を顧客が求めているということが研究開発プロジェクトを設定する出発点となるのであって、技術者の発明が先行するのではない。かような市場志向性アプローチの開発は、まず需要表現(潜在需要の技術的表現化)から始まるのである。
(2)情報収集能力:技術融合にとって、業界内外の技術開発を監視する情報収集能力は不可欠である。優れた情報モニタリングとは、各国の特許出願を目で追うといったような形式的業務を越えるものだ。上級管理者から第一線の社員に至るまで、あらゆる従業員が『能動レシーバー』として情報の収集・普及プロセスの一翼を担うべきである。多くの日本企業にあっては、利用できそうな革新技術に目を光らせておくことが第2の天性、ないし業務活動の一部となっている。



