革新と変化の上に築かれる経済において、経営者がまず挑戦しなければならないことの1つが、よりフレキシブルな組織を作り上げることである。多くの企業が垂直的な階層組織を水平的なネットワーク組織に置き換え、組織を越えたチームによって伝統的な組織を結び付け、協力会社や取引先、さらには、競合他社との戦略的提携を形成している。経営者は、社員全員が職位や職務や課題に関係なく、会社の戦略的使命を理解し支持するよう求めている。

 多くの経営幹部の間で"境界のない企業"という言葉が、このような経営上の挑戦目標を具体的に表現し、また彼らが作り上げたい組織形態をうまく言い表す言葉として使われるようになってきた。ゼネラル・エレクトリックのジャック・ウェルチ会長が、この新しい組織モデルについて雄弁に物語っている。ウェルチはGEの1990年度年次報告書において、「わが社の1990年代の夢は、境界のない企業であります。……社内においては社員相互を隔て、社外との関係においては重要な顧客と我々を隔てている壁を打破いたします」と述べている。ウェルチのビジョンによれば、そのような企業は伝統的な組織間の障壁を取り除き、国内外の業務間に「何らの相違もなく」また「人々が協力しあうのに邪魔になる"管理者"とか"月給社員"とか"時給社員"というような名札のついた集団の存在を無視したり消滅させる」であろう。

 マネジャーが、組織を硬直的で動きにくいものにしている境界を打破するのは正しいことである。しかし、そうすれば境界の必要性が消滅すると考えるのは間違っている。実際、階層や機能や地域のような伝統的境界が消滅すると、それに代わって新しい形の境界が重要になってくる。

 このような新しい境界は組織的というよりも心理的なものである。それは企業の組織図上にではなく、マネジャーや社員の心の中に描かれている。また、企業の構造に反映される代わりに、マネジャーとその上司や部下、同僚との関係において何度も繰り返し"設定"されなければならない。

 この新しい境界は伝統的な境界と非常に異なっているため、大抵のマネジャーにはほとんど気づかれてはいない。しかし、この新しい境界を認識し、それを生産的に活用する方法を身につけることが、フレキシブルな組織におけるマネジメントの真髄である。また、マネジャーは予想もしないようなところから、そのための手助けを得ることができる。それは、仕事に関する自分自身の直感と、一緒に仕事する人々なのである。

フレキシブルな仕事が要求するもの

 伝統的な企業では境界が組織構造そのものの中に"組み込まれて"いた。業務上の肩書の階層は権力や権限の差異を明白に表していたし、それぞれ独立した機能部門はそれぞれの専門技能集団と等しかった。また、献身的な事業部門は企業の商品や市場を反映していた。

 この組織構造は硬直的ではあったが、その中ではマネジャーと部下の役割が単純明快で比較的安定しているという、並外れた優位性を持っていた。企業内の境界は地図上の標識のような役割を果たした。誰と誰が上下関係にあり、誰が何に責任があるのかを明確にすることによって、境界は個人の行動の方向づけと調整を行い、それを企業全体の目標に結び付けていたのである。

 問題は、この伝統的な組織地図が、もはや存在しない世界を描いているということである。新技術や急変する市場や国際競争はビジネス関係に革命を起こしつつある。このようにますます流動的なビジネス環境に対応すべく、各企業が伝統的な境界を不鮮明化するにつれ、人々が仕事上で演じる役割とその果たすべき課題も同様に不鮮明であいまいになっている。

 しかしながら、仕事の役割がもはや公式的な組織構造によって定義づけられないからといって、各人の権限や技術力、能力、あるいは先見性の違いが簡単になくなるというわけではない。むしろ、このような相違が、マネジャーや部下たちに新たな挑戦目標を提供している。企業内の全員が今や、このような相違を生産的な仕事に効果的に用いるために、どのような役割を演じる必要があるのか、またどのような関係を維持する必要があるのか理解しなければならない。

 組織を越えた商品設計チームにおける女性エンジニアの例をちょっと取り上げてみよう。彼女はチームに役立つ存在となるべく、途方もないほどさまざまな役割を演じなければならない。しばしば、チームの商品設計が完全かどうか評価するために技術的な専門家として行動するし、ときには、技術部にはたいして人手ももらえないのに責任を負い過ぎることのないように技術部代表として行動する。そしてまた、別の状況においては、エンジニア仲間たちとの共同作業をうまく進めるために忠実なチームメンバーとして行動するのである。