敵対的な買収やLBO(借入れによる企業買収)が事実上終焉を迎えたにもかかわらず、コーポレート・ガヴァナンス(企業支配)にまつわる緊張の糸はほぐれてはいない。この問題が上呈される議会の公聴会や株主総会でも、また頻繁に起こる委任状争奪戦でも、会社の上級幹部と有力株主は相互に対決の姿勢を崩してはいない。そして基本的な問題の構図は依然解決されないまま残されている。

 リターンに対する投資家の合法的な要求は、長期的な会社の繁栄を脅かす破壊的な圧力へと、いつ形を変えて現われるのか。株主との協議や情報開示の戦略性に関して、経営陣は株主に対してどのような責任を負っているのか。経営陣の監視役や株主の代理人として、取締役会の正確な役割は一体何か。所有者として適正である株主が関与できる限界はどの辺に存するのか。

 1年以上前に、大手公開会社を代表する一流の顧問弁護士と有力な機関投資家が研究部会を形成し、両者の怨恨を解消するために一連の会合をスタートさせた。彼らの目標は、所有者と経営管理者との間に横たわる緊張の糸をほぐす原則の作成を通して、共通の立場に立つことにあった。最近、8人のメンバー全員が意見書『所有者と取締役のための新規約』を作成し、署名して合意に達した。

 HBR誌は、この意見書が多くの読者からの注意深い吟味と論評の対象としてふさわしいと考える。

コーポレート・ガヴァナンス研究部会メンバー略歴

マーチン A. コイル
TRW Inc.(オハイオ州クリーブランド市)の経営担当副社長、最高法律顧問、セクレタリー。米国企業総務協会の前会長。ビジネス・ラウンドテーブルのコーポレート・ガヴァナンス・タスクフォースの法律運営委員会の委員。

リチャード H. コップス
カリフォルニア州公務員退職年金基金(カリフォルニア州サクラメント市)の最高法律顧問。米国公的年金代理機構の元理事長、現出納役兼理事会委員。

ディヴィド B.H. マーチン ジュニア
ホーガン&ハートソン法律事務所(ワシントン D.C.)のパートナー。SEC(米国証券取引委員会)の前委員長補佐。

アイラ M. ミルステイン
ウェイル、ゴットシャル&マンジェス法律事務所(ニューヨーク州ニューヨーク市)の上級パートナー。コロンビア大学法律大学院、法学および経済学研究センターの機関投資家プロジェクトの評議委員会の委員長。クオモ州知事の年金基金投資のタスクフォースの委員長。

フィリップ R. オコーネル
弁護士、コンサルタント。チャンピオン・インターナショナル・コーポレートション(コネティカット州スタンフォード市)の前上級副社長、セクレタリー。米国企業総務協会の前会長。ニューヨーク証券取引所法律諮問委員会のコーポレート・ガヴァナンス小委員会の委員。ビジネス・ラウンドテーブルのコーポレート・ガヴァナンス・タスクフォースの法律運営委員会の委員で前委員長。

セーラ A.B. テスリク
機関投資家協議会(ワシントン D.C.)の専務理事。

クリフォード L. ホワイトヒル
ジェネラル・ミルズ・インク(ミネソタ州ミネアポリス市)の上級副社長、最高法律顧問、セクレタリー。ビジネス・ラウンドテーブルのコーポレート・ガヴァ
ナンス・タスクフォースの法律運営委員会の委員長。

ナンシー A. ウィリアムズ
コロラド州公務員退職年金基金(コロラド州デンバー市)の専務理事補兼最高法律顧問。公務員退職年金基金全国会議の理事会の元理事。米国公的年金代理機構の元理事長で現理事会委員。

所有者と取締役のための新規約

 株式を公開している大会社における所有と経営の分離は、取締役と株主の適正な役割と責任について多くの議論を醸し出した。その本質的なものの1つがコーポレート・ガヴァナンスである。この議論は所有者と経営陣の緊張関係をさらに屈折させてしまい、建設的な意見の一方で騒音さえもまき散らすことになった。何とも不幸なことだ。なぜなら株主、特に所有者として会社に関与する意思を有する機関株主(1)(Institutional Shareholders)と取締役は、会社の持続的繁栄を促進し、支援する目的をお互いに共有しているからだ。

 我々が非生産的な偏見であると思っていることを述べるにせよ、共通の目的を評価しようとするにせよ、我々はコーポレート・ガヴァナンスの原則に関して以下のような考え方を抱いている。必ずしも従業員や顧客には該当する問題ではないが、我々の観点は2つの基本認識を前提としている。

 第一の観点は、所有者としての意識を持った株主(単に投資家としてのみ行動しようとする株主とは厳然と区別される)は、所有という行為にはいくつかの責任が付随することを認識できれば、彼らの投資利益を極大化することが可能であるという考え方である。第二は、会社の持続的繁栄に必要な労働、貢献、後援、支持等を与える人々は、政治・経済的システムの中で、そのバランスを継続的に維持されている。そして米国の州公認の営利法人も、このシステムの中で営業しているという認識である。

「取締役」に要求される5原則

1.取締役会は、CEO(最高経営責任者)の業績を、設定目標と戦略に照らして定期的に評価するものである

 我々は、取締役会が有する他の機能も、この義務と等しい立場にあることを理解しないわけではない。しかしながら、この義務以上に重要なことは何もないと、我々は信じる。もし取締役会がCEOの業績を定期的に評価しないのであれば、いかなる会社組織の形態も有効性を持ち得ない。だからその業績は、取締役会とCEOが同意した目標と戦略に照らして測定されねばならない。CEOの報酬は、当然、業績にリンクすることになる。

2.CEOの業績評価は"社外"取締役によって実施されるものとする

 CEOの業績評価が、CEO自身や社内取締役によってなされ得ないことは自明である。したがって、幾人かあるいはすべての"社外"取締役が、CEOの業績を定期的に評価しなければならない。

 しかし"社外"取締役とは誰のことだろうか。その定義を有効で独立した言葉に置き換えることは至難のわざだ。なぜなら1つとして同じ会社はなく、また会社は永遠に同じであることはないからだ。したがっていかなる定義も、すべての会社に、そして永遠に該当することはない。以上の理由から我々は、社外取締役であるために彼らは会社に雇用されてはならず、(自社株保有や慣習的な取締役報酬以外に)会社と重要な経済的関係を有してはならないと想定する。つまり、会社と付き合いのある銀行家、法律家、供給者、顧客等は社外取締役であるとは言い難いだろう。そして社内取締役の近親者や退職した企業幹部も、適切な独立性の基準に合致していると言えないだろう。