1990年代の厳しいビジネス環境の中で企業が成功を続けるためには、まず、次のような基本的な矛盾を解決していかなければならない。つまり、市場における成功がますます学習に左右されるようになってきているにもかかわらず、学習の方法がわからない人がほとんどなのである。さらに大きな問題は、学習を進めることにかけては最も優れていると思われている企業のメンバーが、実は学習に実績を上げていないという点である。筆者が思い浮かべているのは、現代の企業で主要なリーダーの地位を占めている、高度な教育を受けた、エネルギーに満ちあふれた、貢献意欲の高い専門職たちである。

 ほとんどの企業で、こうした矛盾にどう取り組むかという困難な問題を抱えているにもかかわらず、この重大な問題が存在していることにも気づいていない。それは、学習とはどういうことなのか、どう学習を進めるべきなのかという点について本当に理解できていないからである。その結果、学習を促す組織に向上しようと企業が努力する過程で、2つの間違いを犯してしまうことになる。

 第1の間違いは、学習を「問題解決法」と極めて狭い範囲で定義しているため、外的環境の問題を発見し、対応することに的を絞っていることである。確かに問題解決は重要である。しかし本当に学習を進めたいのなら、管理者も従業員も自分の内面を見つめなければならない。自分の行動を批判的に内省し、企業の問題に無意識に影響を及ぼしている側面を見つけ出し、行動を変革していく必要がある。特に、問題を定義し、解決する過程で取っているその方法こそが、実際には問題の原因となっていることを理解しなければならない。

 筆者は、この重要な違いを説明するために、かつて「単環学習」と「双環学習」という言葉をつくり出した。簡単な例で説明してみよう。室温が摂氏20度以下になると自動的にヒーターのスイッチが入るサーモスタットは単環学習の好例である。しかしこのサーモスタット自身が、「なぜ摂氏20度でセットされているのか」と尋ねることも可能である。さらに、20度でないほうがより経済的に適切な室温を保てるのではないのかと探求し始めると、これは双環学習を始めていると言ってよい。

 高度な専門技能を備えた専門職は、多くの場合、単環学習に優れている。つまるところ、このような専門職は、学位を獲得することに努め、1つ、または複数の学問分野で専門をきわめ、そしてそれらの専門知識を現実の世界の問題解決に適用していくことに一生を費やしている。しかし皮肉なことに、この事実こそ、専門職が双環学習が不得意であることを説明するものである。

 簡単にまとめると、多くの専門職はやることなすことほとんど成功してしまうので、失敗を経験することはほとんどあり得ない。そのため「失敗から学ぶ」ことができない。従って、単環学習の方式がうまくいかないと、専門職は防衛的となり、他人からの批判をかわし、また自分自身を責めるのではなく、だれか他人に責任をかぶせようとする。簡単に言うとこれらの専門職の学習を進める能力は、それを最も必要とする瞬間に機能が止まってしまうことになる。

 専門職にはこうした防衛的に行動するという傾向が見られるが、それは企業が学習について犯す第2の間違いの特徴を明白に浮かび上がらせてくれる。一般的な仮説として、人々に学習を促すためにはモチベーションが最も重要であると言われている。適切な態度と十分な学習意欲を持っていれば、自然に学習が進むと考えられている。そこで企業としては、意欲に燃え、貢献意欲を持った人材を生み出すことを目的として、新しい組織の仕組み、例えば新しい給与制度、業績評価、企業文化等々といったものを作り出すことに熱意を示す。

 しかし効果のある双環学習とは、学習者がどう感じるかということだけに関わりがあるわけではない。それは、人々がどのように考えるかということに深く関係している。つまり行動を計画し、遂行していくために使用する認識原則、あるいは思考方法(reasoning)に関連が深い。これらの原則は、人間の脳に蓄積されており、すべての行動を律している「マスター・プログラム」として認識していくべきだ。この防衛的思考が機能している場合、個人の学習の意欲がいかに高い状態であってもその学習の進行は阻害されてしまう。ちょうどコンピュータの1つのプログラムにバグがあって、そのプログラムを作った人の意図とは正反対の結果を生んでしまうようなものである。

 企業は、以上に述べてきた学習の矛盾を解決する方法を学ぶことはできる。具体的には、管理者や従業員が自分たちの行動について思考する方法を、企業の学習とか継続的な向上プログラムの中心に据えていくことである。自らの行動について、もっと新しく、もっと効果的な方法で思考していくことを教えることで、学習を阻害していた壁を打破することができる。

 これから紹介する具体例のすべてでは、専門職のうちでも、特別の専門職、すなわち有力な経営コンサルティング会社に在籍して急スピードで昇格しているコンサルタントたちを取り上げている。しかし筆者の議論から導き出された結論は、このコンサルタントという、特別な専門職の枠を越えて、様々な専門職に適用可能である。実際に、職務の呼び名は何であれ、以前よりも多くの職種が「知識労働」の形態を取り始めている。企業組織のすべての階層で、高度に専門的な技能をマスターすることに加えて、チーム内で効果的に機能していく能力、クライアントや顧客と生産的な関係を作り上げていく能力、さらに自らの組織で行われている慣行を反省し、必要な変更を進めていく能力を身につけることが要求される。さらに、様々な経営手法では(エネルギーに満ちあふれたコンサルタント、サービスを提供する社員、経営幹部、工場の技術者のだれにとっての経営手法であってもよいが)、それぞれ独立的でありながら、かつ相互に関連づけられた高度な技能を備えた人材の仕事を方向づけ、統合化していくことが中心となってきた。