「会話の構造化」ができるエンジンを開発

新納 展示会に出展していたのは、ちょうど「Front Agent」をリリースした直後の2023年頃でしたね。貴社のAIサイエンティストの方が、我々の「会話の構造化」ができるエンジンの技術価値に気づいてくださり、ビジョンが一致したというところからスタートしました。

小坂 当時、他社の議事録ツールは使っていましたが、商談における発話を文字化するところまではできても、内容を分析するには至っていませんでした。そこで当社では「営業を科学する」というコンセプトで新しいソリューションの開発を進めていたんです。「営業とお客様との会話」という膨大な非構造化データの中から、エッセンスとなりそうな言葉をマイニングして分析し、コンバージョンにつなげることを狙ったソリューションです。

 ところが、「Front Agent」は、我々が目指していたものをはるかに超えていた。それで、我々のほうから「ぜひタッグを組みたい」とアプローチさせていただきました。

新納 そもそも「会話の構造化」ができるエンジンの技術というのが世の中になかったんですね。多くの企業が「生成AIで議事録をつくればいい」と考えがちですが、生成AIで議事録をつくっても、結局人の生産性は上がらない。パーソルさんもそんな生成AIの限界に気づき、我々の提示したアンチテーゼにすごく共感してくれたんです。

小坂 「Front Agent」の画期的なところは、会話データに「数学的」にアプローチしているところです。たとえば、会議室に一日置いておくだけで、アジェンダごとの会話の割合が数学的に算出されます。これは「推測」ではなく「事実(ファクト)」に基づくデータなので、分析結果に納得感があります。生成AIには絶対にできない領域だと確信しました。

パーソルビジネスプロセスデザイン
ビジネストランスフォーメーション事業本部
DX統括部 マネジャー
小坂駿人
Hayato Kosaka

――導入に当たって難しかった点はありますか。

小坂 大きく2つありました。一つは「改善サイクルの構築」です。営業が30人程度とサンプル数が少なかったため、統計的な有意差を出すのに苦労しました。データがそこまで多くないと、統計と一緒で印象論的な話になりがちなんですが、会話のビッグデータから出てくる示唆は、実際の営業の発言という「ファクト」なので、非常に納得感がありました。

 もう一つは、「分析設計」です。顧客軸、業界軸、営業ステップ軸など、どういう視点で見るかの設計がなされていないと、「とりあえずデータは取れたけれど傾向が見えない」という状況に陥ってしまいます。これでは「Front Agent」のポテンシャルを最大限発揮しきれません。

 この点に関しては、Umeeのコンサルタントの方が、「どういう目的で、どういうデータが必要か」という交通整理をしてくれたのがありがたかったですね。

新納 企業が成長し大きくなるには「再現性」が必要です。エビデンスベースで戦略を構築する文化がない企業も多いため、そこから支援することが重要だと考えています。

――「Front Agent」導入により、どのような成果が得られましたか。

小坂 主に3つの成果がありました。まず、フィードバックの質の向上です。上司が同席しなくても、録音・解析された「ファクトデータ」をもとに、具体的かつ客観的なフィードバックができるようになりました。フィードバックできる範囲も大幅に広がりました。

 次に、ボトムアップの提案が活発になりました。若手や中途社員が、トップセールスの商談データ(類似案件)をみずから検索・参照し、「部長の過去の商談を参考に、こういう提案をしました」と報告してくるようになりました。これは育成スピードの向上に直結しています。

 最後に、スタイルの多様化です。トッププレーヤーにも「体育会系」や「ロジカル系」などタイプがあります。自分に合わないスタイルを無理に真似るのではなく、自分に合ったロールモデルのデータを参照できるようになりました。

新納 生成AIだと、ネット上の一般論(最大公約数的な情報)しか返ってきません。しかし、組織特有のデータ(現場の生の会話データ)から得られる傾向をもとに、自分に合ったナレッジを吸収することで、本当に使えるノウハウが得られるのです。

「Front Agent」の本質は「会話が行われる業務であれば、何でも改善できる」という点です。コミュニケーションのシーンにおいては、必ず属人性や傾向が存在します。それをいかに簡単に可視化して、フィードバックできるようにするかが肝心なのです。たとえば人事業務なら、人事担当者と社員との会話を分析して退職率を下げるといった使い道も考えられます。

 つまり、「Front Agent」は単なるセールステックではなく、あらゆる業務の改善に資する「音声のプラットフォーム」なのです。