五十嵐 私は多くのトップと対峙してきましたが、経営者は孤独で、一人で抱え込んでいる人が少なくありません。
日本エグゼクティブコーチ協会 名誉会長
国際コーチング連盟(ICF) 認定マスターコーチ(MCC)
五十嵐 久氏
HISASHI IGARASHI
伊藤 その通りです。ただし、弱音を吐けないという孤独ではありません。考えが整理されていない未完成の状態を、外に出せないという孤独です。
五十嵐 本来、経営会議は「問いを深める場」であるべきですが、現実は「経営から答えをもらう場」として設計されていることが多いですからね。
伊藤 たとえば商品開発でも、納期や数字の目標が大前提とされ、「この判断は本当に顧客のためになるのか」という本質的な問いが後回しになりがちでした。違和感はあっても、相談相手がいなかったのです。
五十嵐 それを自身の能力不足と感じて悩む経営者も少なくありません。本当の問題は、組織構造の中に「利害関係なく相談できる相手」がいないことなのです。伊藤さんはアサヒビールの役員を退かれた後、コーチビジネス研究所(COACH BUSINESS LAB)の「CBLコーチング経営アカデミー(以下、CBL」でコーチングを本格的に学ばれました。その選択の理由はどこにあったのでしょうか。
伊藤 当時61歳でしたが、「人生100年時代」においてはまだ折り返し地点です。アサヒビールを卒業した後の道はいくつもありましたし、いわゆる“上がり”のような生き方もできましたが、それだけでは物足りなかった。自分の経験を一度立ち止まって見つめ直し、言語化したいという思いがありました。
日本エグゼクティブコーチ協会 会長
伊藤義訓氏
YOSHINORI ITO
五十嵐 次のポストを探すのではなく、ご自身の経営経験を理論的に整理しようとされた。その姿勢が印象的でした。
伊藤 自分のこれまでの経験で得た知見を、意欲ある経営者の皆さんに伝えたいという思いもありました。ただし、私自身もさらに学び、さらに成長したいと考えました。そこでCBLを知り、カリキュラムを見て「これだ」と直感しました。
五十嵐 CBLのプログラムは、コーチングスキルを学ぶ場である前に、経営そのものを問い直す場です。小手先のテクニックではなく、企業のあり方、リーダーとしてのあり方などを重視しています。
伊藤 実際に学び始めて、その点には驚きました。最初から「経営とは何か」「ミッションとは何か」という議論が出てくる。コーチングスクールでここまで経営の本質に踏み込むのか、と。だからこそ、CBLで研鑽を積んだコーチは、単なる「聞き役」ではなく、経営という共通言語で対話ができる。トップの孤独な意思決定に寄り添うパートナーとして適任になるのだと思います。