「当社は技術の会社であり、新たなことに取り組む進取の姿勢が強みである半面、そういった取り組みが個人や単一の部門のみで完結してしまう傾向があった」(深澤氏)。そのような文化的背景の中で、長期ビジョン達成計画の実現に向けて全社一体となってDXを加速させていくために2020年に設置されたのが、深澤氏を委員長とする「DX推進委員会」である。
同委員会には各本部の本部長が委員として参加し、DXを推進していくための施策の検討・立案、実施状況のフォローを行い、同時に深澤氏が中心となって縦割りになりがちな社内に横串を通す活動を進めていった。委員会において深澤氏は、各本部トップの考えを引き出し、DXが自分事となるファシリテーションを意識したという。
組織文化やマインドセットの刷新に向け、ボトムアップでの取り組みも同時に推し進めた。「DXアカデミー」開講によってデジタルリテラシーやスキルの向上を図りつつ、「自分たちの思いや、やりたいことをデジタルで形にすることの楽しさ、面白さを感じてもらえるよう、新たなことにどんどんチャレンジすることを奨励した」(深澤氏)。たとえば、DX戦略のコア技術の1つと位置づけるAIについては、リスクを排除したセキュアな利用基盤を構築したうえで、全従業員に生成AIを開放。安全かつ適正に利活用するための教育も実施したことでAI活用が大きく加速し、設計担当者の業務支援、施工計画書のドラフト作成といったAIツールが次々と開発され、実務で使われている。
特筆すべきは、大成建設が「新たなチャレンジを奨励する」というアジャイルな姿勢をトップダウンで明言した点である。大企業にありがちな完璧主義から脱却し、試行錯誤を前提とする文化への転換を促したのだ。
こうした変革の熱量を維持し、戦略を実効的なものへと昇華させる過程において、Ridgelinezが重要な役割を果たした。同社は戦略と実装の「越境」をいとわない伴走者として、各事業部門との調整を重ね、変革の推進力を維持し続けたのである。
「仕組み」と「人」の融合で変革を実装する
大成建設が進めるDXが、単なるスローガンに終わらず、DX銘柄2025に選定されるという大きな成果に結びついた背景には、変革を停滞させないための「仕組み」の構築と、それを動かす「人」への徹底的な投資がある。この実行を支える中核組織として2024年1月に社長室に新設されたのが、先に触れたDX戦略部である。
DX戦略部の成り立ちには、同社の変革に対する強い意志が反映されている。同部のミッションは、「全社に横串を通すこと」と、経営会議において明確に定義され、経営層がその共通認識を深く持ったうえで発足した。部長の野村淳氏は、同部の役割を「経営と事業、あるいは事業部門間をつなぐハブであり、各所の歯車をうまく噛み合わせ、回していくこと」と表現する。
DX戦略部は、大成建設として初めてとなる「本部間をまたぐ兼務制度」によって編成された。各事業部門から第一線級の人財を集めるこの制度において、野村氏が人選で重視したのは、事業プロセスの課題を深く理解し、デジタルで解決したいという強い意欲だった。その結果、部長や室長クラスといった各部門の中核を担う人財がDX戦略部を兼務することとなった。
この制度の導入により、現場に顕著な変化が生まれた。DX戦略部がハブとなり、兼務メンバーが各部門で「社長室DX戦略部」の看板を背負って活動することで、全社戦略に基づいた施策として現場の改革を進めやすくなったのである。野村氏は「若手を中心に『デジタルで現場を良くしたい』という機運が目に見えて高まり、人のつながりや意見が次々と生まれてきたことは大きな成果」と手応えを語る。
こうした組織を挙げた挑戦を、RidgelinezはDX戦略部に伴走しながら支援した。RidgelinezのDirectorである浦谷秀一氏らは、戦略を「絵に描いた餅」に終わらせないため、現中期経営計画の策定段階からDXの観点を組み入れた全社DX戦略の立案、それを各事業部門の戦略とつなぐ事業DX戦略の策定をサポートした。また、立場や視点が異なる組織間の齟齬が発生しないよう橋渡し役を担い、議論が噛み合わない場合は、パーパスやDXビジョンに立ち返り、視点を一段引き上げることで客観的な対話を促した。
そして、生産プロセス、経営基盤、サービス・ソリューションというDX戦略の注力領域ごとに重点テーマを設定し、各テーマを横断して推し進めるための「デジタルツイン」「AI」「リモート」の3つのコア技術と「デジタル人財戦略」の観点を組み込み、相互が強固に補完される構造をデザインした。
たとえば、生産プロセスの変革を推進するためには、それを牽引するデジタル人財の育成が必要となる。その育成実行計画を重点テーマにひもづけて各事業に組み込んでいく。このようなサイクルを生み出すことで、戦略と実行を連動させている。
これは、Ridgelinezが提唱する「4X思考」を具現化したアプローチだ。パーパスとDXビジョンを中核に据えながら、経営の高度化(MX=マネジメントエクセレンス)、生産性の向上(OX=オペレーショナルエクセレンス)、従業員の働き方の変革(EX=従業員体験)、そしてサービス・品質の向上(CX=顧客体験)の4つのXを連携させ、包括的な変革を推し進める。このようなアプローチを、DX戦略部とともに練り上げ、展開した。