(左から)Ridgelinez 執行役員副社長 小野敦史氏、同 Director 浦谷秀一氏(後列)、大成建設 常務執行役員 サステナビリティ総本部副本部長 深澤裕紀氏、同 社長室 DX戦略部長 野村 淳氏(後列)、同 常務執行役員 社長室長 CDO 羽場幸男氏。
サマリー:大成建設は「部門完結型」の文化を打破する全社変革を断行し、「DX銘柄2025」に選定される成果につなげた 。戦略と実装を「人」起点でつなぎ、組織の壁を越えて変革の熱量を維持するメカニズムを紹介する。

建設業界が未曽有の変革期を迎える中、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を新たな価値創造の「エンジン」と位置づけた大成建設は、「部門完結型」の文化を乗り越え、全社横断的な変革を実行した。その軌跡の裏には、Ridgelinezが提唱する「4X思考」と、戦略から実装までを「人起点」でつなぐ徹底したアプローチがあった。両社への取材から、組織の壁を打破し、変革の熱量を途絶えさせないDX実現のメカニズムを解き明かす。

市場の荒波を越える大成建設の長期ビジョン

 建設業界はいま、歴史的な転換点を迎えている。少子高齢化に伴う慢性的な担い手不足、時間外労働の上限規制への対応、さらには品質・安全・環境に対する社会的要請の高度化など、企業に突きつけられた課題は複雑かつ重層的だ。一企業の努力だけで解決しうる範疇を超えた構造変化に直面する中、大成建設が2021年5月に策定したのが、長期ビジョン「TAISEI VISION 2030」である。

 同社はこのビジョンの下、2030年に純利益1500億円、ROE(株主資本利益率)10.0%という高い財務目標を掲げ、建築・土木・開発・エンジニアリング・海外の5つのセグメントにおける抜本的な変革を進行中であり、DXはその変革を実現するための「新たな成長エンジン」として位置づけられている。

 2024年5月に策定された長期ビジョン達成計画においては、DXは中長期事業戦略を遂行していくために必要な「事業変革の進め方」の一つと定義された。単なる機能的なサポートに留まらず、DXを経営の根幹に組み込むことにより、経営戦略と事業戦略、DX戦略を一体的に実行していくという経営の意志の表れである。建設業としての課題解決と本質的な企業価値の向上を図るために、経営の意志をDXに宿らせたともいえる。

 そして、経営戦略、事業戦略、DX戦略の一体化を実効的なものとしているのが、ガバナンス体制だ。常務執行役員社長室長である羽場幸男氏がCDO(最高デジタル責任者)を担うことで、長期ビジョンと個別のDX施策が乖離することを防ぎ、経営の意志をダイレクトに現場の変革へと接続させている。さらに、CDO直下の組織として、DX戦略部が設立された。

「情報(デジタル技術とデータ)をスピーディに活用することにより、当社グループの企業価値向上を図るという基本方針の下、生産プロセス、経営基盤、サービス・ソリューションの3つを注力領域と定め、それを全社横断で推進していくためにDX戦略部を設立した」。羽場氏は、同社のDX戦略推進体制について、そう説明する。

 大成建設は、経済産業省などが公表する「DX銘柄2025」に選定された。それは、経営ビジョンと連動した明確なDX戦略があること、DXを着実に進める体制が整備されていることなどが、高く評価された結果だった。

大成建設 常務執行役員 社長室長 CDOの羽場幸男

「部門完結型」から全社最適への転換

 DXの推進において、技術的な実装以上に困難を極めるのが、「組織文化」の変革である。大成建設においてその陣頭指揮を執った前CDOで常務執行役員の深澤裕紀氏(現サステナビリティ総本部副本部長)は、着手当時の大きな障壁として部門完結型の文化があったと振り返る。