以下のケースは、ドミニオン-スワン・インダストリース(DS)社の"1995年度"の従業員ハンドブックからの抜粋である。DSは主として、自動車の電気系統部品の製造を専業とする多角経営企業で、年に10億ドルを売り上げている。抜粋した部分は、人的資源経営の専門会社"サイエックスプラン"(世界企業の人的資源管理会社)の協力のもとに、DS本社の人事部長が5年後を予測して作成したものである。

DSの未来像:テクノロジーを軸に発展する企業

 当社はテクノロジーを基盤とする企業であるから、その中心的役割を担う社員を尊重する。当社では社員によって構成される企業社会に関心を払い、各自の正直な行動、情報に基づく同意、自由な科学的探求などを重視する。当社の従業員は会社の戦略を理解し、業績の向上に寄与する方法を自由に提言できる。一方、会社側は、生産性の高度の上昇と、企業活動への精力的な参加に対して、十分な報酬を与える。科学分野に従事する当社は、精密な実験を行うとともに、経験を通じて学ぶことが重要であると信ずる。

 当社は1990年以来、次のような理由で、職場環境の刷新を行ってきた。1990年に入ると、DSの生産性と製品の品質は、海外のライバル企業に対抗できなくなり、会社の将来は不確実となった。社員の転職率は上昇し、特に自動車用チップ、スイッチ、モジュールなど、当社が最も重視する分野で、それが著しかった。保健関連のコストと、作業中の事故は増え続け、社員の士気は低下した。

 一方、工場や事務所での盗難や、進行中の研究の競争会社への漏洩件数は、未曽有の高水準に達した。さらに、麻薬の使用も激増した。保安要員の報告によると、駐車場や運動場ばかりでなく、主要工場周辺のレストランやバーなどでも、社員のふしだらな行動が目撃されたという。

 1990年秋にDSは、サイエックスプランに委嘱して、職場環境の抜本的リストラクチャリング(再構築)プログラムの開発に着手した。当社は海外のライバル企業のコーポレート・カルチャーから多くを学んだ。そして、その革新的な"ワーク・サポート・テクノロジー"(作業支援技術)にあやかろうと決意した。そうしなければ、会社は衰退を続け、究極的には従業員は職を失うことが明らかだったからだ。

 しかし、このプログラムが開発され実行に移される過程では、社内には動揺があった。一部の貴重な人材が辞職したり、あるいは早期退職をする社員が出るといったことが起きた。しかし、このプログラムへの経営側の努力が、広く社内に浸透した結果、秩序正しい前向きな環境づくりを、真剣に望む人々の協力を得ることができた。

 現在では、DSの事務職、専門職、工員を含む全社員は、企業が成功するためには、会社と各社員の利害がどう一致すべきかを理解している。当社はこのことを誇りに思う。心理学者ウィリアム・ジェイムスは、"会社がつぶれると従業員も共倒れになる"という。この考え方は洋の東西を問わず、全世界の伝統の中に深く根を下ろしており、新たに展開されるグローバル市場についても、同じことがいえる。

基礎的条件

 1990年以来、1人当たりの生産性は14%、売上高は23%それぞれ上昇し、労働力は逆に19%減少した。社員の実質所得は、主としてボーナスと利益配分プランが加算されて、18%上昇した。これらの要因の多くは、工場の生産技術の改革によるものである。同時に当社は、企業精神の育成と社会的テクノロジーの活用によって、時代を先取りしてきたことを誇りに思う。

 DSのワーク・サポート・リストラクチャリングは、以下の4つの柱からなる。

 1. 会社が社員の家庭となるようにする。その方法として、職場と家庭とを引き離している人為的な壁を取り壊し、会社側が率先して社員の孤立感を一掃する。偉大な会社は偉大な社員によって創造される。全社員のビヘイビアと自己開発が決め手である。