-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
今日、すべての企業は大なり小なりコスト上昇の影響を受けているので、たいていの経営者は、資本コストと対比したいわゆる経常コスト面へのインフレの影響を調整するすべを学んできた。にもかかわらず、これを他社との競争戦略作成に当たって留意する経営者がほとんどいないのは、どういうわけであろうか。とりわけ、資本投資の大きい企業の経営者が、こうした資本投資が長期的な競争力にどれだけ影響するかに十分に目を向けていないことが多い。
著者は、多くの資本集約的企業の分析や経営コンサルティングの経験から、どんな企業もインフレにもかかわらず、というよりインフレを逆手に利用して、競争力を強化することができると説く。また、すべての経営者にインフレの競争力に与える影響の大きさをライバル企業と同時に自社についても知るために、戦略策定を目的としたコスト分析を行なうようにすすめている。
本稿では、段階を追って、企業におけるいろんなコストの割合の変化を分析・判定し、戦略的に効果のある対応策を示す。
インフレの慢性化した時期にXYZ社の経営者たちは、コストの上昇をカバーするために製品価格をあげ、利幅を守るという習慣を身につけてしまった。ここにいうXYZ社というのは、いくつかの企業を含めた集合体である。XYZ社は、他の競争相手会社が同じような行動をよぎなくされるのを見て、XYZ社自体、そういう戦略をとることで自社は安定的だと感じていた。
そこへデフレの時代がやってきた。市場の需要は沈滞し、やがてひどい不況となった。買手市場が到来したのである。XYZ社はデフレ下でもゆっくりと上昇を続けるコストをカバーするために、もはや製品価格の上昇では対応できなくなった。それは、売上数量に敏感な競争相手がマーケットシェアを拡大しようとしてアグレッシブに価格を武器に戦いを挑んできたからである。かくして、他社の利益は上昇気味なのに、XYZ社の利益は減少をよぎなくされてきた。なお一層悪いことには、XYZ社のライバル企業は、かつてのように、その産業全般にわたる製品価格の一斉値上げに追従せず、値上げの機が熟しているにもかかわらず、XYZ社に比べて少ない割合の値上げにとどめるか、値上げを全く見送ってしまったのである。
かくして、XYZ社は価格競争のワナに、まともにつかまってしまったのである。同社の経営者は、競争相手の企業がコスト面で有利であるに違いないと思い込んでしまった。ライバルに追いつくために、XYZ社は既存の設備の近代化もしくはコスト面で競争力のある新鋭工場を建設する投資計画を検討した。しかし、これらの建設等の資本投資額があまりにも高いので、XYZ社としては製品価格を現在のレベルからかなり高くしなければ、好ましい投資利益を確保できないことがわかった。しかし、このような高い価格では、ライバルは引き続き十分な競争力を持っている。
XYZ社のおかれたような苦境には、他にも多くの資本集約的企業が立たされている。例えば、北米の紙パルプ業界では、コストの高い新設備と、完全に償却し終えた設備との間では、1トンにつき100ドルのコスト差がある(1)。
多くの米国製鉄業ではアジアの同業企業と比べて、経常面の変動費用がよりテンポ早く上昇しているし、大規模な一貫設備に近代化するには資本面の投資コストが途方もなく高いとみているのである。
電力業界も例外ではない。電力会社は特定地域を対象とした独占体であり、基本的には電力という一商品を扱う商品会社であったが、現在は他の電力会社への元売りと大口利用を対象とする市場では苦しい価格競争下にある。少しでもコストの低い供給者が、コストの高い供給者から商売を取りあげてしまうからである。将来の電力需要にそなえて原子力発電設備を建設中の電力会社のほとんどが、上昇する資本コストと余剰の供給力との板ばさみにあえいでいる。1970年代に建設された発電施設に比べて、3倍から5倍も高い資本コストで設備を拡充中の多くの電力会社は、完成の暁には高い固定費のために他社と競争できるかどうかに不安を抱いている。
例えば、ニューハンプシャーのシーブルック原子力発電所のプロジェクトは、第1および第2ユニットの建設コストが当初の予想額10億ドルから52億ドルに跳ね上がったため、カナダの低廉な水力発電の余剰とニューイングランドの30%もの超過供給力との競合で、その経済採算性が危ぶまれている。同様に、北西太平洋地域も余剰の発電能力を抱えているうえ、予想される100から200%の料率アップのために、かつては強力だったワシントン電力供給公社は、ついに債務不履行に、次いで倒産すれすれに追いこまれている。将来については激烈な価格競争が予想されている。すなわち、太陽熱発電設備の発展や、ゼネラル・エレクトリック社、ウエスチング・ハウス社、ユナイテッド・テクノロジー社および日本の数社で開発を進めている光電池素子の面での技術革新の可能性から、さらに一層低廉な電力供給源が出現し、重要となってくると見られるからである。



