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アメリカの大企業の中で完全に組合をもたない企業はごくわずかしか残っていないが、これら非組合企業の多くの人事政策が進歩的で公正であると広く認められているのは単なる偶然ではない。これらの企業が魅力的な作業環境を創り出そうと努力するのはなぜだろうか。著者によれば、そのわけは、企業運営上、当然、人事政策に十分な配慮をしなければならないことを企業のトップマネジメントが認識しているからである。著者は、完全な非組合企業か、それにほぼ近い非組合大企業26社を調査した結果に基づき、人事管理がうまくいけば収益性と成長を増進する組織風土が醸成されうると結論づけている。
大企業が組合をもたずに営業することから受ける最大の利益は何だろうか。それは支払い賃金と福利給付費の低減だと答える人が多いかもしれない。しかし私は、完全に組合をもたないか、ほとんど存在しない大企業26社について最近行なった調査に基づき、その見解に強く異論を唱えたい。調査の示すところによれば、そのような企業の受ける最大のメリットは、長期的にも短期的にも生産性を向上させるための柔軟性を持っているということである。
なお、この26社は無作為に抽出したわけではなく、いずれもその業界内で尊敬される代表企業であり、多くの場合、革新的人事政策で定評があるために、調査対象としたことをまず断っておきたい。調査企業の中にはブラック・アンド・デッカー、エリ・リリー、ジレット、IBMやポラロイドがある(調査の詳細については、以下の囲み欄を参照のこと)。これらの企業の経験は、従業員関係に対し積極的かつ創造的な施策を展開しようとする企業にとっては生産性を高めることができることを示唆しているので、組合のない他の企業にとって特に教えられるところが大きい。従業員関係面で革新的な施策を打ち出すことは組合のある企業にとっても可能なことだから、これらの経験はかれらにとっても参考となりうる。
調査の仕方
調査対象の26社は、全米に立地する製造および保全部門のすべて、またはほとんどすべての従業員がどの組合にも加盟していないという事実に基づき、非組合企業と定義された。調査企業のうち20社はフォーチュンの製造業"500"社に掲載され、残り6社は個人所有かサービス業で、当然その中に入る資格のある売上高があった。調査企業の半数は調査時点で10億ドル以上の売上げがあった。
各企業とも全米で2200名から15万名の従業員をかかえており、60%は米国内で1万名以上の従業員をかかえている。3社を除けば全社が製造業だが、業種はまちまちである。残りの3社はサービス業である。銀行や保険会社は調査対象に含まれていない。調査企業の多くは、それぞれの分野で業界の指導的立場にある。ほとんどの企業の名前が日常よく聞く名前であるが、オリジナル調査時の協力の条件としてほとんどの名前はふせてある。
このフィールド・スタディではケース・スタディによるインタビュー方式を採用した。500名以上の中枢ライン管理者――会長、社長、事業部管理者、下級管理者および人事部門管理者を含む――にインタビューした。
調査企業26社の経営者たちは、組合があればいまのような生産性は達成できないと信じている。彼らは自分たちの会社では従業員の愛社精神が高く、労働移動率や欠勤率が低いし、技術変化に対する労働者の抵抗も少ない、と語っている。例えば調査したある1社の月間移動率は0.5%で、業界平均よりかなり低い。もう1つ別の調査企業の年間平均移動率は3%である。さらに別の企業の売上高1ドル当たり雇用人員数は、業界他社のどこよりも少ない。またある企業は非常に魅力的な会社だという評判が立っており、求職者が多く、よりどり見どりである――一般労働職につき年間500人の求人数に対し、年間平均8000から1万件の求職申込みを受けつけている。
インタビューした企業の多くを観察してみると、以上のような利点の生ずるゆえんは、従業員関係の諸施策を自由に実験できることであり、労働者とじかに接触する機会があることであり、さらに労使に対立関係がないことである。当然のことながら、これらの企業の多くが達成した結果を簡単にまねたり、移し換えたりはできない。従業員に対するトップマネジメントの強い関心が、いろいろな政策の実施を通して制度化されていることが私の調査で明らかになった。またリーダーシップという無形資産、個人的模範、および象徴物の利用も重要な役割を果たす。これらの企業の豊かな遺産と伝統は管理者や従業員に甚大な影響を及ぼす。私の研究で、組合のあるなしにかかわらず、企業の管理者が自社の人事施策の有効性を測定できる9つの共通属性、政策および態度が非組合大企業の中にあることが判明した。
1. 気くばりの感覚
第1に、そしておそらく最も重要な点として、私の調査した非組合企業の創設者の多くが、従業員の処遇について徹底的に平等主義の考えをもっていた。今日では、社内的階級や身分を示す伝統的象徴は存在しない。多くの企業において、副社長から掃除役に至るまで誰もが同じ駐車場を利用し、似たような医療給付を受け、同一の食堂で食事をしている。役員室はごく質素か、ないことさえ多い。どの段階の従業員も互いにファーストネームで呼びあっている。さらに、一部のトップクラスの役員の給与は、フォーチュン"500"社の水準からみると低目である。こうした企業の多くが、トップマネジメントという支配階級をあからさまに象徴する専属の車やクラブ会員権などの特権を廃止している。
従業員に対するトップマネジメントの思い入れぶりは象徴面で示されるばかりでなく、特定の方針や施策を通して具体化される。例えばヒューレット・パッカードは職務保証、革新的訓練計画、空席公募による内部からの抜擢、現金利潤分配制度、魅力的な株式購入制度、広く認められているストック・オプションやフレックス・タイム制を実施している。ほとんどの場合、会社がまだ極めて小さかった頃に、創設者が効果的な人事施策に対するトップマネジメントの姿勢をはっきりと打ち出し、文書に残している。
□ IBMのトマス・ワトソンはほぼ半世紀も前に現在でも同社を支配する人事管理の諸原則をうたい上げた。個人の尊重は昔も今もその原則の1つである。
□ ポラロイドの創設者エドウィン・ランドは同社の草創期にポラロイドの目標について語っている。"われわれの基本的目標は2つある。1つは真に新しく大衆に有用な製品を最高の品質で、しかも安いコストで作ることである。2つ目は当社で働くすべての人に対し、ここでの仕事が自分の人生にとって十分に報われた貴重な時間となるような機会を個々人に与えることである"。
□ エリ・リリー社の場合、J. K. リリーが現在でも同社の指針となっている雇用問題に関する報告を1916年に書いている。彼の言葉を抜粋すると、"雇用機能は正常な労使関係のみならず、よい組織にとっても極めて重要であるから、'採用室'は当社の最も重要な部門の1つとみなすべきである"と述べている。



