モチベーションと感情との関連について述べてみよう。そもそも人間の感情を示すのに、漢語の五情六欲に起源をもつ「喜怒哀楽」がよく使われる。われわれが抱く感情が、「喜怒哀楽」だけだったら、単純でわかり易いのだが、残念ながら、それほど簡単ではない。同情、嫉妬、後悔、屈辱、恥といった複雑で繊細な心情までが、感情に含まれている。
ただし、他人の心の内を覗くことはできないから、外から観察可能な、外見的に理解できる感情だけに絞って、モチベーションとの関係を考えてみたい。カリフォルニア大サンフランシスコ校のポール・エクマンは、表情として表われる基本的感情に6種類あることを示している。
図2を参照してほしい。この6つの基本的感情は、アメリカ人であろうが、日本人であろうが、(エクマンが調べた)ニューギニア人であろうが、文化によって異なることのない、生物学的基盤を持つヒューマン・ユニバーサルな感情である。われわれ人類が、二足歩行を始めた太古の昔から、サーベルタイガーなどの外敵に狙われて、「戦うか逃げるか」という決定を促すために、生物としての適応に必要な感情なのだと考えられている。
前向きと後ろ向きのモチベーション

この6つのなかで、前向きのモチベーションの基礎となる肯定的感情は、色分けしているので明らかだろうが、「喜び」だけである。残りの5つの要素は、後ろ向きのモチベーションと関連してくる。すなわち、前進―後進の観点で精神的エネルギーを問題にすれば、われわれはややもすると、後ろ向きの気持ちの流れを感じることが多いのだ。それだけでなく、われわれは、否定的感情のほうにより敏感に反応してしまう。後ろ向きのモチベーションのほうが、われわれを強く動かしてしまうから、厄介なのである。