その結果はどうなったか? 90年代までは、アジアの中で相対的優位性を保っていたわが国の大学や企業が、軒並み競争力を失い、英語が話せて外国でビジネスのできる人材の育成については、韓国と中国に、もはや周回遅れの差をつけられている。国全体としても、環太平洋経済連携協定(TPP)や自由貿易協定(FTA)への交渉参加に入る前に、国内調整に手間取っており、グローバル化に対して屁っぴり腰になっている。
どうして、人材育成が後手に回ってしまったのか? 今、人造りは大切にされているのだろうか?
変幻自在なOJT
これまで、職場の人材育成の中心は、現場教育とOJT (On-the-Job Training)が担ってきたと信じられてきた。たとえば、厚生労働省「平成23年度能力開発基本調査」(回答企業数3403社)を見れば、正社員の教育訓練に関して、76.4%の企業が「OJTを重視」しており、「Off-JT重視」(23.5%)を圧倒している。この傾向は非正規社員ではさらに強くなり、79.1%の企業では、正社員以外の教育訓練をもっぱらOJTに頼っている。
OJTとは何か? 説明するまでもないが、訓練の対象者が実際に仕事をやりながら、必要なスキルや能力や知識を学ぶことを指している。「仕事をやりながら仕事を覚える」とか、「仕事を通じて能力を高める」といえば聞こえがいいが、その実態はバラバラで、はっきりとはしない。その場その場で形を変え、姿を定かに表さない変幻自在な訓練方法の総称が、OJTだといってもよい。
そもそも厚生労働省の調査では、回答選択肢にはOJTとOff-JTの別しかない。同じように、われわれの頭の中でも、教育訓練といえばONとOFFのスイッチしかないようだ。節電が求められるエコの時代であっても、ONがよいのだ。これこそ、OJTの効果を問う前に信じ込んでしまう「OJT神話」というものだろう。