急速に広がる没入型体験施設

「没入(イマージョン)」が消費者体験の定義を書き換えつつある。今日、人々は毎日のようにどこかの体験型施設を訪れている。

「ネットフリックス・ハウス」では、この動画配信サービスの人気作品『ストレンジャー・シングス』や『イカゲーム』の世界を実際に歩いて体験できる。「チームラボ バイオヴォルテックス 京都」を訪れれば、デジタル技術を駆使した大型アート作品が来場者の動きに応じて変化する。

「サンドボックスVR」では、参加者が装備を身に着け、チームで行動し、戦略を練りながら、終末世界でゾンビの大群と戦ったり、どこかの惑星で独裁者の軍隊と戦ったりできる。米国の玩具店「キャンプ」では、子どもたちが秘密のドアを開けると、その先には『ブルーイ』『パウ・パトロール』『ペッパピッグ』といった子ども向け人気番組をテーマにした世界が広がっている。

 ナイキの店舗「ハウス・オブ・イノベーション」では、購買行動をパーソナライズされた双方向性のあるスポーツの旅へと変えている。さらに、ギネスの「オープンゲート・ブリュワリー」に行けば、単なる工場見学ではなく、同社を代表するスタウトを五感で味わう体験ができる。

 没入型体験が急速に広がっている背景には、2つのトレンドによる相乗効果がある。

 1つ目は「アテンションエコノミー」(関心経済)の台頭だ。企業やブランドが、消費者の継続的な関与を得ようと競い合う経済である。完全な没入型体験は、消費者の関心を獲得するための最も優れた戦略だ。

 2つ目は、過去30年にわたって消費支出が「体験」へとシフトしてきたことだ。これが企業に、記憶に残る瞬間を商品化しようとする強い動機を与えている。

 この2つのトレンドは、先進的なVR(仮想現実)ヘッドセットや空間コンピューティング、AI搭載の対話型キャラクター(ホログラムやロボット)といった没入型テクノロジーが、ただ物珍しい存在から主流の製品へと移行するにつれて、今後ますます加速していくだろう。

 もちろん、没入型体験そのものは目新しくはない。ディズニーのアトラクション「イッツ・ア・スモールワールド」は1964~1965年のニューヨーク万国博覧会のために制作されたが、いまなお世界各地の同社テーマパークで多くの来場者を惹きつけている。

 とはいえ、最近の「没入型(イマーシブ)」という言葉は、本当に夢中にさせる体験を指すのではなく、手の込んだテーマ演出を指すマーケティング用の釣り文句として使われることが極めて多い。企業はテクノロジーの力だけで消費者を感嘆させたいと考えがちだが、重要なのは、その消費者体験が人々を魅了し、最初から最後まで関心を維持し、その体験の意味について一貫性をもって完結させられるかという3点だ。