5月30日、オープンソースビジネス推進協議会(OBCI)主催のセミナー「新しいサービス・プロダクトはイノベーションから始まる」が都内で開催された。ITが社会基盤となり、人とITの接点をより広範なユーザーに使いやすい形にする必要性が高まるなか、一線のイノベーターたちが事例とともにその最新事情を語った。

イノベーションを起こすのは
ダブルメジャーを持つ人材

 ITが高い機能を持つほど、人とITの接点をデザインするデザイン・エンジニアの役割は重要になる。

田川欣哉
タクラム・デザイン・エンジニアリング代表

 タクラム・デザイン・エンジニアリング代表の田川欣哉氏は「デザイン×エンジニアリング 境界線に生まれるイノベーション」をテーマに基調講演に登壇。トヨタの次世代PHV向けマルチモニターやNTTドコモの〈iコンシェル〉、クラウド型名刺管理アプリ〈Eight〉ほか、革新的なインターフェースを開発した経緯に触れた。

 いずれも、工業デザインとエンジニアリングの両領域に精通する同氏ならではの発想から生まれたものだ。田川氏は、「イノベーションを起こすのは、二つ以上の専門性を備えた『ダブルメジャー人材』」と定義する。

 たとえば、アプリを開発する場合、高度なコーディング技術と、消費者が手にしたくなるデザイン技術の二つの専門性を持つ人材が開発をリードすることで、完成品に近いプロトタイプを迅速に作ることができる。その結果、経営幹部やスポンサーの理解が得やすくなり、プロダクト化が加速する。

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イノベーションは、「ビジネス」「テクノロジー」「クリエイティビティ」の融合によって生まれる。日本ではビジネステクノロジーに関わる層は厚い反面、ビジネスクリエイティブに関わる層が薄い。(田川欣哉氏資料より)

「二つ以上の専門性」は、「デザイン×エンジニアリング」に限定されない。同氏は、イノベーターとは、右の図に示した「ビジネス」「テクノロジー」「クリエイティビティ」の二つないし三つの領域をカバーする人材であると言う。

「日本で比較的多いのは、『ビジネス×テクノロジー』で、技術畑出身の経営者などが典型例。逆に最も少ないのは、『ビジネス×クリエイティビティ』の領域に精通する人材です」

 昨年、田川氏は、東京大学と放射線測定機器メーカーが共同開発した乳幼児専用の内部被ばく検査装置のデザインプロジェクトに参加した。最大の課題は、「検査に要する4分間、子どもを測定機の中でじっとさせること」。丸みのある明るい色のボディに加え、機器内にタブレット端末を置きアニメを見せることで課題を克服した。

「イノベーションを起こすプロダクトの開発には、意外な知識が役立つことがあります。社員には、熱処理や塗装など一見専門外と思える領域にもチャレンジするよう促しています。