しかし、その後日本や米国、フィリピン、中国などで仕事をするうちに、日本企業の素晴らしさをあらためて思い知らされることになる。「だから、日本企業は強いのか」と膝を叩くことが何度もあった。

 P&Gで長らく人事に関わったこともあり、最初に目に付くのは「人」である。日本人はまじめで、当たり前のように努力する。道徳観を持ち、正直である。知らない相手にも敬意を忘れず、仲間同士で協力するチームプレーも得意だ。全体的な教育レベルは高く、取引の相手として信用できる。

 文化的にも世界トップレベルだと思う。仏像や絵画などに見られる芸術性、食文化のレベルの高さ。街はきれいだし、優れた建築物も多い。水道や鉄道などのインフラも優れている。

 海外を見渡すと、これらの美点をこれほどのレベルで持ち合わせている国はほとんどない。賄賂が幅を利かせている社会も珍しくない。日本人の美点は日本企業の強さの源である。ただし、それだけで勝てるほど、グローバル競争は甘くない。勝つためには何かが足りない、もしくは何かを変える必要があるはずだ。

外に目を向け、外から学ぶ
その姿勢が日本の強さ

 では、日本企業が勝つためには何が必要だろうか。細かい要素を列挙すればキリがないが、最も大事なことは本来の強みを思い出すことだと思う。

 それは優秀な社員であり、外に学ぶという姿勢である。歴史を遡れば、日本人は大陸から仏教や文化、政治制度を取り入れ、日本という環境に適合させ洗練させてきた。

 明治維新後は欧米諸国に学んで、短期間で国家の形を構築し近代産業を興した。そして、わずか50年で世界の列強に名を連ねるまでになった。第2次世界大戦後、灰の中から立ち上がり20年あまりでGDP世界第2位の経済をつくりあげた。

 明治と昭和の時代、世界を驚かせるほどの大事業を成し遂げた原動力は、謙虚に学ぶという姿勢である。明治期には大学教授や技術者などを招いて、教えを請うた。戦後の代表的な人物は、デミング博士だろう。優れた品質管理を行っている企業や経営者に贈られるデミング賞が創設されたのは、敗戦からわずか6年後の1951年である。

 外に目を向け、外に学び、良いものを取り入れて高品質のものを完成させる。あるいは、そこに新しい発想を加えて、イノベーションを起こす。そんな強みを、ある時から多くの日本企業が忘れてしまった。