CSVから競争優位を産み出すための
5つのチャレンジ

 日本企業に求められるチャレンジは、次の5点に絞られる。

1.新しい社会課題を着想し大規模市場を発見する
 日本企業にはすでに、深刻な社会課題に対して自社製品・技術の適用可能性を検討するという観点から、社会課題起点で新事業の種を捜す活動を進めているところも多い。しかしながら検討過程においては、高齢化、省エネルギー、食料問題など、社会課題をそれぞれ単一的に捉えがちであり、かつすでに顕在化し広く認知されている、いわばレッドオーシャンの社会課題を取り上げている例が非常に多い。ゆえに「小粒の事業」にとどまりがちである。
 社会課題を大規模市場化するためには、それぞれの社会課題を単体で捉えるのではなく、あえて無関係と思われる社会課題同士を複合的に組み合わせることで新しい社会課題として捉え直すことが重要だ。なぜなら、課題の複合化により、いわばブルーオーシャン的な全く新しい市場セグメントを発掘することにつながるのに加え、実際に各々の社会課題解決の支持者が輻輳化することにより「大義力」が高まるためである。

2.“越境”前提で事業モデルを構想する
 イノベーションの本質は“越境”にある。しかし、日本企業は「自社ができること」の枠の中で事業を捉える傾向にあり、既存の枠を超えた事業範囲に踏み込むことが苦手、もしくは越境を前提としてイノベーションを着想できていない。それゆえ、どんなに巨大なブルーオーシャンマーケットを発掘できていたとしても、「自社でできることから小さく始めて(一気に他企業に追い抜かれて)小さいまま終わる」というジレンマに陥る。
 対して、世界の社会課題から骨太な新事業を構想していくためには、3つの越境を前提に、事業範囲を考えていくことが必要だ。「産業の枠・業界の枠を越える」こと、「規制の枠を越える」こと、そして「国境を越える」こと、これらを前提とすることが骨太な事業モデルの構想には不可欠なのだ。

3.自社に有利なルール創りを仕掛ける
 日本企業はルールを創るのが苦手だといわれる。歴史的に日本企業は、欧米企業が先行して出した製品・サービスの品質を高めることに注力することで、競争力を確保し成長してきたという経緯から、ビジネスにおいてルールは従うものであり、創るものではなかったため、その経験がそもそも不足しているのだ。
 しかしながら社会課題領域は、そもそもその原因が秩序/ルールの不備もしくは機能不全のケースも多く、ルール形成を仕掛けやすい領域でもある。社会課題に近いプレイヤーであるNPO/NGOもうまく巻き込みながら、中長期的な視点からさまざまなプレイヤーの声を輻輳的に集積しルール形成をしたたかに仕掛けていくことで、持続的な競争優位につなげる戦略的な取り組みへの挑戦が必要だ。

4.外部を巻き込み事業をリーンに立ち上げる
 日本企業はオープンイノベーションがなかなか進まない。昨今はグローバル競争の中で、先端的な技術を有するベンチャー企業等との連携を進める企業が増えているが、外部の異質な「知」を上手にテコにしている例はけっして多くない。
 社会課題解決による新事業創造においては、社会課題の実態への精通度合いと社会課題解決に向けた世界最先端のノウハウという観点で、いわばNPO/NGOとのオープンイノベーションの重要性が新たに加わってくる。
 昨今、事業立上げにおける手法として注目されるリーンスタートアップにおいては、適切な初期仮説設定と試行錯誤のためのスパーリング相手が必要であるが、社会課題起点のリーンな事業立上げにおいては、大義を掲げて、NPO/NGOを中心とした、社会課題解決の協働者ネットワークを戦略的に囲い込むような取り組みが必要だ。

5.再現性を高めるためのメカニズム化を図る
 前述のように、CSVでイノベーションを仕掛ける取り組みは、測定が難しい社会的価値がゴールとなり、活動の大部分が形式的なナレッジにしにくい暗黙知で構成されるのが特徴だ。一方で、一般的にイノベーション創出を狙う活動にブレーキを掛けるのは、社外ではなく圧倒的に社内である。既存事業の利益・効率の最大化を目的に長年運用されてきた組織に染み付いた“クセ”が、無意識的に、効果の測りにくい活動を潰すのだ。
 したがって、確実に成果が見込まれるわけではないこれらの取り組みに対して不適切なブレーキが掛からないよう(すなわちイノベーションが促進されるよう)に、意図的に、組織内部の意思決定の仕組みや組織体制、新規事業開発プロセスなどを整備することが必須だ。

 以上5つのチャレンジを、日本企業が単独で乗り越えていくには大きな困難が伴うことは容易に想像できよう。実は、そのための強力な外部パートナーたりうるのが、NPO/NGOを初めとするソーシャルセクターなのだ。次回からは、企業がこのNPO/NGOと、セクターを超えてどのように連携すべきかを、トライセクターイノベーションで最前線を走る有識者との議論も交えながら見ていきたい。