CSVが照らし出す、企業の新たな“戦い方”

 CSVに対する日本企業の経営者の反応には、「CSVは(いわれなくても)昔からウチでやっているよ」「日本企業が昔からやってきたことなのに、なぜ米国発のキーワードを新たに掲げる必要があるのだ」という趣旨の、どちらかというとネガティブな声も少なからずあるのが実態である。

 だが、これは大きな誤解だ。

 実はCSVに潜んでいるのは「原点回帰と革新の両立」という概念である。確かに「社会課題を解決しながらビジネスを創る」ことは、戦後の日本企業が一貫してやってきたことであり、CSVはいわば「原点回帰」に見えるかもしれない。しかしながら時代は大きく変わっている。いまを生きる日本企業が、戦後創り上げてきた自身の“戦い方”を、CSVを通して進化させることで競争優位を確立し、いまもグローバル市場で勝ちきれているかというと、そうとはいえないのが現状であろう。

 これは、CSVにもう一方で潜む「革新(イノベーション)」を回すエンジンが弱く、CSVが理念止まりで、戦い方を進化させるまでには至っていないことを表している。

 21世紀に入り、新興国市場の台頭、世界金融危機などをはじめとして、先進国企業が直面してきた経営環境の変化は、これまでの戦い方を無効化するほどに大きいものであった。競争市場がグローバルに拡大する中で、荒削りだが物凄いスピードで先進国企業へのキャッチアップを続ける新興国企業の台頭により、先進国企業は市場のコモディティ化と競争力の地盤沈下にあえいでいる。すでに、従来型の戦い方を抜本的にリニューアルせざるを得ないまでに時代が変化しているのである。

 現在多くの日本企業は、「自前の研究開発投資を背景とした高度な性能改善型製品の開発で先行して上市し、持続的な現場密着型カイゼンをもとにした利益捻出により投資回収を図る」ような従来型の戦い方から抜け出せず、21世紀以降の経営環境の激変に抗うことができずに飲み込まれつつあるのだ。

 これに対して見逃してはならないのは、CSV先進企業といわれるGEやウォルマート、ユニリーバなどの戦い方の変化である。これらの企業に共通しているのは新たな競争軸として、<1>社会課題解決(大義力)と、<2>ルール(新秩序形成力)、<3>組織知(再現力)の3つが加わっている点だ。

 すなわち、これらの先進企業は、<1>製品の機能・品質・価格に加えて、製品の利用普及を通じて社会課題解決を実現するという競合他社と差別化された“大義”を高らかに掲げて、その魅力を消費者に訴求しつつ、<2>大義の下に、政府機関やNPO/NGO等の多様なプレイヤーをトライセクターで束ねて、新たなルールやビジネスモデルの必要性をしたたかに提唱し、新たな社会秩序の形成に挑むような戦い方を仕掛けてきているのである。

 さらには<3>現時点では総じて定型化しにくく模倣しにくい、いわゆる「暗黙知」が支配するこれらの活動を、組織の「形式知」として早期に確立することで、組織力の観点で競合他社に対して持続的競争優位を確立することも狙っている。

 これらの仕掛けが、競合企業の従来型戦略を無効化し、コモディティ化が進む市場においても収益創出期間が持続し得る、構造的な競争優位の枠組みを創り出しているのだ。これがまさに、日本企業に足りないCSVの片輪を構成する「革新(イノベーション)」にあたるものなのだ。

 では、日本企業が新たな戦い方としてのCSVに向けて、社会課題を起点とした新事業創造・事業構造変革を推進していくためには何が必要なのだろうか。