女性が活躍する職場づくりが
イノベーションにつながる

 P&Gジャパンの組織文化変革が目指した方向についても、キーワードを列挙しよう。「アイデアの民主主義」「成果主義」「自由・責任・信頼」「実践」「多様性(女性)の尊重」「グローバル」「自主性の尊重・成長」である。これこそ、P&G的なカルチャーだ。ちなみに、アイデアの民主主義は、私がソニーを訪問したときに教えてもらった言葉である。

 これらを実現するために、さまざまな施策が実行された。ここでは、多くの日本企業にとって関心の高い二つのテーマ、女性の活躍する職場づくりと英語の公用語化について述べたい。

 人材採用はすべての企業にとって大きな課題だが、当時のP&Gジャパンにとってはより切実だった。優秀な学生確保の方策について何度も検討を重ねた結果、女子学生に狙いを定めることにした。もちろん、優秀な男子学生も欲しいのだが、男子については他企業との競争が非常に激しい。女子学生向けのリクルーティングに注力すれば、人材獲得競争で優位に立てるはずだ。

 この判断は、消費者理解に基づいてイノベーションを推進するという戦略に沿ったものである。P&G商品の購入者、ユーザーの大半は女性である。女性のニーズを深く理解する女性社員が活躍することで、P&Gジャパンのイノベーションが促進され業績向上にもつながる。並行して、フレックスタイム制度や在宅勤務制度などを拡充、より使いやすいものにすることで、女性が働きやすい職場づくりにも取り組んだ。

 また、部門別のキャリア制度への移行も、専門性を身につけたいと考える学生(男女を問わずだが)にアピールしたのではないか。入社後どこに配属されるかわからないということではなく、マーケティングや財務といった部門単位で人材を採用する制度への移行。これはイノベーションの組織づくりとも密接に関係している。

 アマチュアがイノベーションを生み出すことはできない。部門ごとに徹底して専門性を磨くことが重要だ。各分野で深い知識や技術力を磨くことで、初めてイノベーションが創出されると私たちは考えた。この考え方は採用時だけでなく、入社後の教育などにも適用された。

 こうした取り組みの結果、各階層における女性の比率は格段に向上した。現在、P&Gジャパンの役員相当級では、女性の割合が約半数に達している。各階層の管理職比率を見ても、日本企業に比べるとはるかに高い。私が在籍していたころには、P&Gジャパンの持つ2工場の工場長がいずれも女性だった時期もある。

 こうしたダイバーシティへの取り組みを、P&Gは世界規模で行っている。各国の現地法人に置かれたダイバーシティ担当役員は女性比率などの目標を掲げ、定期的に本社のレビューを受ける。目標に達していなければ責任を問われるだろう。