理屈でなく理想から考えれば
ソニー社長も株主になってくれる
石倉 児玉源太郎がお好きなんですね。どういうところを尊敬しているのですか。
徳重 児玉が私と同じ山口県出身ということもですが、児玉だけでなく『坂の上の雲』の登場人物が好きです。日露戦争をテーマにした司馬遼太郎のこの小説を読んだのは米国にいるときですが、日露戦争は、戦略性やパッション、ロジック、起業家魂といったもののすべてが含まれていると感じました。負ける戦だと分かっていたので、英米の世論を味方につけようと、伊藤博文らがプロモーションを展開し、山本権兵衛が派閥で腐った組織を立て直し、若手登用で秋山兄弟のような現場リーダーを育成する。一方、高橋是清は、紙くずになるかもしれない国債を売って戦費を調達する。その戦争遂行の頂点に大山巌や児玉源太郎がいました。これらのどれが欠けても負けていたと思います。
ベンチャー経営に置き換えると、パートナーリング、プロモーション、資金調達、リーダーシップ、現場力など要件がすべてあり、“スーパーマン”たちが200%の力を発揮しています。近代日本を創った人たちはこうだったのか、と思いました。グローバル経営も同じように、いくつもの活動を何人もの人が200%の力を発揮してやらなければ、勝つことはできない。自分の軸とか信念がなければ絶対に実現できないと確信しました。
石倉 徳重さんの“特攻力”の背景には、そういう強烈な思いがあるのですね。そしてその思いを実現するために、テラの株主として、ベネッセの福武さん、元ソニーの出井さんなど、そうそうたる方々から資金を集められた。
徳重 日本のベンチャーはシリコンバレーと違って、信用がありません。それを克服する、例えば日本のベンチャーがアジアで事業を展開するには、元グーグルの社長さんとか元ソニーの社長さんとかアジアでよく知られている方々の支援を得ることが信用に大きく影響します。支援を得るという明確な目標を持ち、それぞれの方々を狙って、資金調達に取り組みました。創業前の半年ぐらい、みなさんにお願いして回りました。
石倉 飛び込みでお願いしたわけですね。
徳重 そうです。出井さん(元ソニー社長)、辻野さん(元グーグルジャパン社長)らにお願いしてご快諾いただいた後、もう1人違う会社の方に支援してほしいと思いました。「そうだ、アップルの人がいない!」とひらめき、思い立ったら即行動です。アップル・ジャパン社長だった山本賢治さんに、ホームページを通じて「1回、会わせてください」とお願いしたところ、面接したその場で出資を決めてくださいました。
石倉 それがシリコンバレースタイルですね。
徳重 頭のよい人は、論理で考えてすぐに諦めてしまいがちです。「出井さんが自分になんか出資してくれるわけがない」と。でも私は違う。実現しようとする理想から考えます。「こういう人が事業には必要だ」と思えば、プレゼンをして出資してもらう。今は株主ではありませんが、次の増資の際には、イーロン・マスク(テスラモーターズCEO)にお願いしてみるつもりです。彼とは歳が同じぐらいで、本気でEVを普及させようと考えているところも共通していますから。
石倉 イーロン・マスクと意気投合する可能性は、とても高いと思いますよ。理想から考えて、ダメもとでやってみる、という徳重流と共通したところがありますから。