自己変革のメカニズム2
《市場との連鎖》
組織に自己変革の“気づき“を与える基点は「市場との連鎖」にある。市場において、顧客ニーズは時々刻々と変化する。それらを先取りしようとする「顧客とのつながり」が、まず組織を変化させるきっかけになる。
顧客ニーズを先取りできれば、他社に先駆けて独自の持続的な信頼関係を築くことができる。顧客の変化と常に直結することが組織に変化をもたらす。
しかし本来これは顧客にかぎった話ではなく、企業を取り巻く多様なステークホルダー(利害関係者)にもすべて当てはまる。株主をはじめ、社会的な存在として影響を及ぼす多様な利害関係者との継続的な関係、いわば「ステークホルダーとのつながり」を構築していくことが欠かせない。
こうした顧客やステークホルダーとのつながりを構築することを通じ、企業がいかに利益を生み出していくかは企業の成長にとって根源的な要素である。顧客やステークホルダーに利益を還元する、あるいは将来への投資に振り向けていくことで、「市場の連鎖」と「時間軸の連鎖」が結びつき、平時から自ら気づき危機感を持って変化してゆく、すなわち、自己変革のきっかけを促すことにつながっていくのである。
自己変革のメカニズム3
《組織内の連鎖》
「市場との連鎖」により知覚された変化の気づきを、現在から将来に至る「時間軸の連鎖」の軌道上で、組織全体に広げていく。そして、変革の学習能力・再現能力を高め、変革を持続させる。そのための一連の仕掛けが「組織内の連鎖」である。組織内の連鎖は、内部から組織変革を起こす起爆剤であり、一過性の強制的な変革による限界を超えて、自己変革を継続させるための仕掛けである。
時間軸や市場から知覚された危機感に基づいて、真っ先に組織が変革しうるとすれば、それは「上から変わること」、すなわち経営陣や意思決定層から変革することである。組織とは、上が変われば全体は自ずと変わっていく。
実際に多くの経営トップは、長期的な視野に立ち、多様なステークホルダーとの緊張関係の中で危機感を最も感じている。しかし、意思決定者層の経営陣が一枚岩でないと組織全体を動かすことはできない。その意味で組織が自己変革をできるようになる大前提となるのが「意思決定のつながり」だ。この意思決定のつながりが、経営トップが持つ長期的な時間軸を組織の要となるリーダー層が共有し、それぞれの持ち場である組織全体に浸透させる機能を果す。いわば「時間軸の連鎖」と「組織内の連鎖」を相互につなげる役割を果たすのである。
一方で、経営トップだけでなく、最前線で日々のマーケット変化に最も敏感な存在である「現場」は、組織内で変革の必要性を感じている存在であり、変化の“最先端”である。この「市場との連鎖」を最も近くで感じる現場と、経営トップを含む意思決定レベルをつなぎ、経営トップの視野や危機感、現場が感じている外部の実態を、同じ温度で共有することができて初めて、組織が一体となる。経営と現場との距離をいかに縮めるかが重要になる。「経営と現場のつながり」は、「市場の連鎖」と「組織内の連鎖」が一体となって機能していく結節点として重要な構成要素である。
こうしたつながりを、組織全体の動きに広げ、自己変革を持続させることができる組織にするには、「組織横断のつながり」がカギを握る。部門や階層の違いなど、いわば“組織の壁”を超えて縦横無尽につながることで、組織内の知見や情報の交換・共有、人的リソースの活性化が促される。そうすることで、外部的な変化に対する気づきや、新しいアイデアを生み出す学習能力が高まっていくのである。
どの組織でもどこかに変革のきっかけは眠っている。組織内の各要素の間のつながりが確保されることで、一部の変化が組織全体を動かし、他の要素に相互に影響を与えることで、組織の学習能力が高まっていく。こうした仕組みを組織内に織り込めれば、変革の再現性を高め、継続的な変革を自走させる動力を持てるようになるのだ。
そして最終的に、組織に自己変革をもたらす「3つの連鎖」を支える根底に存在するものは「人」である。経営者のリーダーシップ、風土、組織に属するメンバーの個々人が自ら変革を起こすこと、その自己変革力こそ組織の持続的成長を決定づけていく。すなわち、「一人ひとりが変革リーダー」になること、それが自己変革できる組織になるために究極的に求められる姿なのだ。