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未開の市場を発見するには……
企業同士が真っ向から対決した場合、とりわけ市場が停滞している、あるいは市場の伸びが鈍化していると、熾烈な戦いへと発展しかねない。このような競争に巻き込まれた場合、ほとんどのマネジャーが異口同音に嫌悪の意を表し、他に選択すべき道はないものかと嘆く。
彼らはたいてい、何らかのイノベーションを生み出さないかぎり、このような混沌から抜け出せないことを直感的に知っている。ただ、どこから手を着けてよいのかわからないだけである。たとえば、独創的な戦略を構築してはどうか、既成の枠にとらわれず自由に発想してはどうかというアドバイスも、実践の用に足ることは稀である。
我々は、斬新かつ卓越した価値を創造している企業を、およそ10年にわたって調査研究してきた。新市場の創造、あるいは市場の再生パターンを探求し、6つの基本的なアプローチが存在することを発見した。これらすべてに共通することは、何ら変哲のないデータを新たな視点から見つめ直すことである。いずれも特別なビジョンや先見の明が必要なわけではない。
ライバルと張り合い、打ち負かすことに、ほとんどの企業が懸命になる。その結果、各企業とも似たような競争戦略を立案し、同じ土俵で競争する傾向が生まれる。これらの企業には、「業界内、あるいはストラテジック・グループ(同一業界内で同じ戦略を追求する企業群の総称)内の競争戦略」に関して、どうやら暗黙の了解があるようだ。また、ターゲット顧客、顧客が評価する価値、また、業界が提供すべき製品やサービスの範囲についても、従来の常識に基づいた考え方を等しく持っている。
業界常識を共有する傾向が強まるほど、各企業の競争戦略はその類似性が高まっていく。競合他社の上を目指そうという努力も、コストや品質――あるいはその両方――を少しずつ改善することに終始する結果となる。
新市場を創造するためには、競合他社とは異なる戦略思考が必要だ。マネジャーたちは、常識的な枠組みにとらわれて発想することなく、複数の競争領域を体系的に見渡す必要がある。そうすれば、まさしく「バリュー・ブレークスルー」(新しい価値の創造)を生み出し、未開の競争領域を発見できる。
本稿では、既存の枠組みを越えた発想――代替となる産業を理解する、ストラテジック・グループや購買企業のグループ、あるいは補完財や補完サービスを理解する、機能志向の業界ならば感性志向のプレーヤーを目指す、あるいは逆に、感性志向の業界ならば機能志向のプレーヤーを目指す――によって、「バリュー・イノベーション」(価値の革新的な創造)の体系を構築する方法について論じたい。
同業他社ではなく代替となる他業界に学ぶ
きわめて広範に考えるならば、ほとんどの企業が業界内のライバルのみならず、代替財や代替サービスを提供する他業界のプレーヤーとも競争している。買い手は購入の是非を意思決定する際、本能的に、また多くの場合無意識に、代替財や代替サービスと比較している。
たとえば、夕食と観劇を兼ねて街に出かけるとした場合、さて、自動車で行くのか、電車に乗るのか、タクシーを呼ぶのかを考えて、何らかの決定を下すことだろう。個人であろうと企業であろうと、購入者は、直感的にこのような思考プロセスを踏むものだ。
ところが、どういうわけだろう。ひとたび売り手の立場に変わると、このような直感的な発想をどこかに置き忘れてしまう。顧客は自社の業界と「代替となる他業界」(以下、代替産業)とをどのように比較・評価しているのかについて、売り手が努めて意識することはめったにない。



