現金もクレジットカードも携帯電話も持たない体験

 いまから10年ほど前の話だ。当時ヴァージン・モバイルのCEOだった私は、同僚と一緒に少々ユニークな挑戦を受諾した。その挑戦とは、現金もクレジットカードも携帯電話も持たず、ホームレスのように着の身着のままで、ニューヨーク市の路上で24時間を過ごすというものだった。

 ヴァージン・モバイルは、若年層のホームレスを対象にしたチャリティを支援していた。社員向けのイベントを開いた際に、そのチャリティを代表して出席した人から、「この活動の重要性は、支援される側の人々の暮らしぶりをみずから味わってみなければわからない」と言われたのだ。私はこうして挑戦に応じたのである。

 あれは、けっして忘れられない経験だった。同僚と一緒に物乞いをしたが、私はあまりうまくできなかった。ちょっとした食べ物を買うためのお金を恵んでもらうのに、6時間かかった。まるで私は透明人間であるかのように、道行く人々のほとんどに無視された。安心して眠れる場所を探すのに何時間もかかった。どこに行っても追い出されるので、最終的に行きついたのはスケートボード用の遊び場だった。