デジタル化を追い風に
将来像を作り出す

25年以上に渡って、金融・サービス・自動車・消費財・小売などの業界のマーケティング領域のコンサルティングに多く従事。マッキンゼー(マネジャー)、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(パートナー)を経て現職。早稲田大学大学院経営管理研究科客員教授を兼務。著書に『メディア・マーケティング進化論』(PHP研究所)、『金融マーケティング戦略』(ダイヤモンド社)など。
──既存の事業部門の反発が予想されるなかで、強みを発揮できる領域をどう見極め、事業のコヒーレンスを高めていけばいいのでしょう。
トップダウンまたはコーポレート部門主導で強みを見極めていく必要があります。ボトムアップ型の中期経営計画策定を繰り返していても、強みを見極めることは難しいでしょう。トップやコーポレート部門が伸ばしたい領域を判断し、自社が勝てる理由を語り、ベクトルをしっかり指し示すことが重要です。注力する方向が決まれば、各事業部も必然的に自ら将来像を考えざるを得なくなります。また、目指すべき姿を先取りしているような、つまり他の事業部門が参考にすべき好事例となる部門があれば、その部門やリーダーを積極的にハイライトしていくこともトップの重要な役割です。
──「自ら将来像を作り出す」うえでのポイントは何ですか。
日本の主力産業である製造業は、アナログなものづくりの世界で強みを発揮してきましたが、デジタル化の進展によって製造機能への参入障壁が下がり、新興国に簡単にキャッチアップされるようになりました。今後はデジタル化、サービス化の流れを追い風と捉え、ものづくりとセットにすることが大きなポイントになります。
たとえば、IoT(モノのインターネット)によって得られるデータ量は、個々のユーザーよりも、全ユーザーが使用している製品から広く集めることができるメーカーのほうが圧倒的に多いはずです。そこから適切な使用法や、効率的な稼働方法がわかり、それをサービスとして提供することも可能です。IoT端末というハードウエアを付加しただけでは大したビジネスにはなりませんが、そこから蓄積されるデータを活かしたサービスを提供するには、顧客の現場に足を運ぶようになり、より本質的に顧客の困りごとを解決する新たなビジネスチャンスを生み出し得るでしょう。
日本企業は同業他社と同質的競争を繰り返してきたため、自社独自のアイデンティティが弱い場合が多いと言われます。しかし、それでも隣のライバルと顧客層の棲み分けができている場合、自社が強みを持つ顧客層が現場レベルで感じている困りごとを他社より深く理解できているはずであり、それに対する解決策、すなわちソリューションサービスを提供できる可能性は高いはずです。
<PR>