新しいテクノロジーだけでは
産業の変革は起こらない

　ある産業が変革（トランスフォーメーション）を遂げると、つい新しいテクノロジーが導入されたからだと考えてしまう。新しいテクノロジーが重要な役割を果たすことは多いが、それだけで一つの産業が一変したことはいまだかつてない。そうした変革を実現させるのは、出現しつつある市場ニーズに新しいテクノロジーを結び付けることができるビジネスモデルなのだ。

　その代表例がMP3テクノロジーだ。初期のMP3デバイスは、磁気テープやCDよりも容量が桁違いに大きかった。ユーザーは、小さなデバイスに数千曲もの音楽を入れて持ち運ぶことができた。しかし、MP3プレーヤーがオーディオデバイス市場に革命をもたらしたのは、アップルが新しいビジネスモデルでiPodとiTunesをつなげて、音楽販売を物理的製品からバーチャルの世界へと速やかに移行させた後のことである。

　ビジネスモデルでテクノロジーの可能性を花開かせるには、具体的に何が必要なのだろうか。筆者らはこの問いに答えを見出すため、幅広い業界で新しいビジネスモデルを立ち上げた40社について綿密な分析に乗り出した。その中には、業界を根底から変えることに成功した企業もあれば、有望視されていたものの、結局は成功に至らなかった企業もある。本稿では、主な研究成果を紹介し、それらがイノベーターの業界変革にどう役立つかを提言する。