日本企業に特有の課題
そこで、日本企業がAIの実証実験段階から脱し、実用化するために乗り越えるべき課題について考えてみたい。
これまで我々がAI活用を検討しているクライアントとのコミュニケーションを通じて実感している課題は、大きくは以下の3点である。
(1)目的が不明瞭
クライアントの多くが「AIを活用するようにと経営層から指示されたが、何をすればいいのか」と頭を抱えている。「自社のこの業務を、AI技術を使うことでこう変革したい」という目的が不明瞭なため、経営上のインパクトが小さい領域や取り組みやすい分野から着手しており、結果としてAIの効果が過小評価されてしまう。
(2)「実現したいこと」ではなく「現在の技術でもできること」から発想している
いまの技術でもできることにAIを活用する発想だと、①と同様に「実証実験をしてみたが、大きな効果が出ない」という結論につながり、実用化に向けた検討が進まない。
(3)試しにやってみることが許されない
AIは大量のデータを学習することで高度化していくが、導入初期段階ではデータによる学習が不十分なので、失敗もある。その失敗も含めてAIにとっては大切な学習であり、それは人間と同じことだ。しかし、試しにやってみる、失敗を許容する文化がないとAIのような革新的技術の導入は進まない。
第3次AIブームと言われても、AIの実用化はまだ緒に就いたばかりである。新たな付加価値創出ツールとも言えるAIについて、いまの段階で短期的な成果を求めるよりも、AIという新たなツールを活用したさまざまなビジネスモデルなどを試行することが、日本企業の成長にとっては、より重要だと思われる。保守的な行動原理から一歩踏み出して、知的なリスクテークを行う。AI活用をその絶好の機会ととらえるべきではないだろうか。