『成長への企業変革』(原題:Fit for Growth)の著者の一人であるデニス・キャグラー氏が来日した。企業変革の実用書として米国でも高い評価を受ける同書で詳しく紹介した「成長のための最適化」アプローチは、日本のような低成長市場においてこそ、必要不可欠であるとキャグラー氏は語る。

すべての支出は投資である

──「Fit for Growth(成長のための最適化)」について、クライアントはどのように評価していますか。

DENIZ CAGLAR
『Fit for Growth』(邦題:成長への企業変革)の著者の一人。組織設計、本社機能の効率・実効性改善、シェアードサービス、アウトソーシングなどについて深い専門性を持つ。消費財・小売業界に注力するほか、自動車・医療・金融サービスなどの業界で多くの経験を有する。2017年、米『コンサルティングマガジン』誌の「トップコンサルタント25人」(Top 25 Consultants)の一人に選出された。

キャグラー(以下略):書籍『成長への企業変革』の原書では、クライアントのコメントを紹介しているのですが、ある企業のCEOは、「この本の一番いいところは、とても実用的で、読んだ後すぐに応用できることだ」とおしゃっています。PwC Strategy&としても、私個人としても、このような評価を非常にうれしく思っています。

 「成長のための最適化」は、資源すなわちコストを一番必要なところに、適切に配分することで、戦略を実行できるようにするという考え方に基づいていますので、企業の大小を問わず、あるいは業界を問わず、そして、新興国であっても先進国であっても、応用できます。

 よい食事と睡眠をきちんと取り、たばこやアルコールを控え、適度な運動をする。これは健康を維持するために誰にでも当てはまるアドバイスですが、同じように「成長のための最適化」も、どんな会社にも当てはめることができます。

──『成長への企業変革』から最も学びとってほしい点は、何ですか。

 それは、コストに対する考え方を変えていただきたいということです。私たちが書いた『成長への企業変革』は、すべての支出は投資であるという前提からスタートしています。コストは、将来のための戦略的な投資だと考えていただきたいのです。

 すべてのコストが悪いわけではありません。良いコストもあります。自社を差別化するケイパビリティを特定し、それらを強化する部分にはコストをかけ、そうではない部分には投資をしない。良いコストと悪いコストを明確に区分し、きちんと管理することです。

──日本では低成長に悩んでいる企業が多いのが実情です。

 低成長の企業や成長が鈍化した市場においてこそ、限られた資源を最も適切なところに投資し、長期的な成長を図る「成長への最適化」のアプローチが欠かせないと思います。良いコストと悪いコストをきちんと管理しないと、成長投資のための資金がなくなってしまうからです。

 コスト構造の最適化は、単なるコスト削減とは違います。コスト構造を変革する際によくある間違いは、成長に必要な投資まで削ってしまうことです。自社を差別化するケイパビリティを見極めないで、一律にコストをカットしてしまうと、自社の強みすら失う可能性があります。

 もう一つのよくある間違いは、仕事のプロセスや組織の機能などを何も変えないで、全社一律にコスト削減するやり方です。人がダイエットをする時にも、間違ったやり方をすると一時的に体重を減らすことができても、健康を害したり、すぐにリバウンドしてしまったりします。健康的かつ持続的にダイエットを続けるには、生活習慣や食事の摂り方を変える必要がありますが、コスト構造の最適化もそれと同じことです。