昨今、大企業がコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)を設立する動きが目立っている。ベンチャー企業とのオープンイノベーションを推進するための手段としてCVCファンドを設立し、ベンチャー企業に投資したものの、思ったように事業シナジーを創出できず、オープンイノベーションが進まないといったケースも多い。そこで、CVCファンドを通じてベンチャー企業との事業シナジーを創出する上で欠かせない、3つの視点を提示したい。

投資するだけでは
成果は生まれない

青木義則(AOKI,YOSHINORI)
PwCアドバイザリーのディールズストラテジー部門のリーダーとして、M&A戦略からビジネスデューデリジェンス、統合後の戦略再構築など、M&Aにかかる戦略課題を中心にクライアント企業を総合的に支援している。博士(工学)。

 筆者は、これまでのCVCファンド運用サポートの経験から、CVCファンドを運用する大企業がベンチャー企業との事業シナジー創出において成果を出すためには、以下の3つの視点を持つことが肝要だと考えている。

①目的は明確になっているか

 多くのCVC関係者は、事業シナジー創出を目的としてCVCファンドを設立したと語るが、そこからさらに一歩踏み込んで考えを深めてみてほしい。

 たとえば、「どのような新規事業を立ち上げたいのか」「対象となる事業領域はどこか」「要素技術や人材を獲得する目的での投資も含むのか」など、可能な限りイメージを具体化してみてほしい。

 このように「目的」の検討を深めることによって、投資対象のイメージがより具体化する。逆に、対象イメージが曖昧なまま投資を行うと、投資そのものが目的化してしまい、投資実績の案件数は積み上がるものの、何を狙ったファンドなのかよくわからないポートフォリオとなってしまう危険性がある。

 次に、CVCファンドの目的である事業シナジーと、ファンドとしての財務リターンの関係についても、考えてみたい。

 我々の調査 では、CVC実務担当者の約半数が事業シナジーと財務リターンの両方を求めていると回答した。財務リターンを求めるのであれば、その基準や、事業シナジーとの優先順位を明確にしておかないと、投資の意思決定において判断がぶれてしまう。「技術は良いけど儲からなさそう」「儲かりそうだけど事業シナジーが弱い」といった議論が毎回繰り返され、案件ごとに場当たり的な意思決定が下されていく(または、どの案件も意思決定できない)リスクが生じる。

※ PwCアドバイザリー合同会社「CVC実態調査2017」。日本国内のCVC実務従事者を対象にしたアンケート調査。

 ベンチャー投資に不慣れな場合などは、財務リターンの基準設定が難しいかもしれないが、ベンチャー投資はリスクが高アセットなので、最初は小さく始めてその中からうまくいきそうな会社を大きくするといったアプローチでリスクコントロールを図ることは、念頭に置いておいたほうがいい。

 また、財務リターンをまったく無視するのもお勧めできない。投資先が破たんしてしまえば、そもそも事業シナジーの実現は不可能である点を肝に銘じておくべきであろう。

 加えて、財務リターンがなければファンドとしての持続可能性を担保できず、経営陣が代わった際などに真っ先に清算の対象となりかねない。