②しっかりとした社内体制を組み、投資先と信頼関係を構築できているか

 投資後のベンチャー企業への関与は最小限にとどめ、複数の投資先の中から期待通りに成長した会社を最終的に買収て、新規事業を立ち上げるアプローチであれば、CVCファンドは少数精鋭のチームでも問題ない。

 一方、投資先との事業シナジー創出を目指すのであれば、社内の体制を充実させる必要がある。協業の構想・計画策定から実行までベンチャー企業と一緒になって推進するには、案件ごとに専任の担当者を配置する必要があるだろう。また、協業が軌道に乗ってくれば、さらに人数を増やし、最終的には投資部門から独立した組織に発展させることも視野に入れておくべきであろう。

 ベンチャー企業との協業推進担当者をバックアップする体制も重要である。協業推進担当者は、事業シナジー創出におけるプロジェクトマネージャーであり、ベンチャー経営者と議論し、協業の具体案をまとめる。次に、その具体案を関連する事業部門に説明し、協業を実行するための担当者を任命してもらうことになる(要するに事業部門への売り込みである)。その後は、ベンチャー経営者と事業部門担当者の双方の具体的なアクションを決め、プロジェクトを推進していくことになるのだが、筆者の経験からいえば、ベンチャー経営者とのコミュニケーションよりも社内調整のほうに圧倒的に時間と労力を取られるケースがほとんどである。その際に、経営陣によるバックアップがないと、事業部門からの協力を得るのは容易ではなく、協業が遅々として進まない。

 事業シナジー創出を加速させたいのであれば、経営陣によるバックアップ体制も含め、関連する事業部門も巻き込んだしっかりとした社内体制を構築する必要がある。

 また、社内体制がしっかりしていても、ベンチャー経営者との信頼関係がなければ、協業は進まない。そのためには、大企業側の協業推進担当者も共に汗をかきつつ、ベンチャー企業側にとってもメリットのある提案を心がけなければならない。株主だからといって、上から目線で接しているようであれば、そのうちそっぽを向かれることになるだろう。

 また、協業が非常にうまくいった場合は、協業相手であるベンチャー企業を買収するという選択肢も出てくる。その際には、ベンチャー経営者との信頼関係を構築できているかどうかが、買収の成否を決めるといっても過言ではない。

 仮に買収できたとしても、信頼関係がない状況であれば、買収完了後に、経営者や幹部社員が相次いで退職するリスクも生じる。株式売買契約などでそういった事態を回避する方法もあるが、契約書だけでは現実的には限界がある。

 米国のCVCでは、将来的なM&A対象のパイプラインを充実させることが、CVCの重要な戦略リターンの一つとみなされることも多く、その点からもベンチャー経営者との信頼関係を大切にしている。