能力を育てるにも、新事業への挑戦を委ねるにも、個々の従業員の能力や資質まで含めたタレントに対する深い理解がベースになければ成功はおぼつかない。しかし大企業は、人材の埋没化のリスクにさらされている。一人ひとりの持ち味を深く理解した、血の通ったタレントマネジメントが必要だ。
人事情報のオープン化が
組織内の人材の埋没化を回避する
松下電器産業(現・パナソニック)の創業者である松下幸之助はかつて、新日本製鐵(現・日本製鉄)相談役だった永野重雄とのある経済誌の対談で、「人間というのはお互いを知ることから始まるのですが、千人、万人になってくるとなかなか記憶できない。300人ぐらいだとだいたい覚えられる」と明かしたことがある。
これに対して永野も、「(300人とは)軍隊で言えば中隊単位で、隊長がおやじであとは家族。この範囲だと一人ひとりの気分までわかる。この範囲なら単位が固いから単位を集めていけば、これが300倍になっても強いのです」と応じた 。
2人の名経営者の至言に深く頷く経営幹部は多いのではないだろうか。いかなる時代でも人が、他人の人となりまで理解して育て、マネジメントするには限界がある。
そして大企業では今、タレントマネジメントがますます難しくなってきている。グローバル競争で生き残るために業界や企業の再編が進み、組織の巨大化が進んだためだ。
この結果、従業員のコミュニケーションの希薄化が進み、「人が見えた血の通ったタレントマネジメント」が一層難しくなっている。人材が埋没してしまうリスクが高まり、次の競争力強化のための人材発掘にも大きな影響を与えている。
さらに人手不足を背景にした人材活用の高度化を求める動きもあり、企業は、「一人ひとりの能力と個性を正確に把握し、個性を伸ばすためのマネジメントでなければ人材は活用できない」と考え始めている。
その取り組みで肝となるのが人事情報のオープン化だ。「各社の人事部は膨大な従業員情報を持っているのですが、それがタレントマネジメントなど経営力強化のために公開され、活用されているかと言えば大いに疑問なのです」と語るのは、クラウド型の人材管理システム「カオナビ」を提供するカオナビの柳橋仁機社長だ。

柳橋社長によれば、給与や福利厚生費などの人事労務情報が集約されている基幹システムは「人件費を確定するためのシステム」であり、「人材をマネジメントするためのシステム」ではない。しかし、そのことが理解されずに基幹システムやエクセルを駆使して不便さを感じながらもタレントマネジメントに取り組み、上手く行っていない企業が多い。タレントマネジメントには“別枠”のシステムが必要であり、大手のシステムベンダーも、タレントマネジメントシステムの開発会社を買収し始めている。