デジタル化の進行や少子高齢化・人口減少などにより、日本企業では従業員の継続的な能力開発、ことに年齢層の高い従業員の再教育やスキルセットの入れ替えが、これまで以上に重要度を増している。世界25ヵ国に拠点を持つグローバル企業の創業者であり、「タレントマネジメントのThought Leader(方向性を示す指導者)」とも呼ばれる米コーナーストーン オンデマンドのCEO(最高経営責任者)、アダム・ミラー氏に、従業員の潜在能力の引き出し方について聞いた。
社会の役に立つことで起業したい
それは「大人が学び続けられるようにすること」だった
――ミラーさんは、ペンシルベニア大学ビジネススクールだけでなく、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のビジネススクールとロースクール(法科大学院)も卒業しておられますね。その学歴と、コーナーストーン オンデマンドを創業したことはつながっていますか。
私の祖父が起業家だったこともあり、私自身も起業家になりたいと思っていました。そして、起業するなら社会の役に立つことをやりたかった。それが何なのかを考えた結果、「大人がいつでも学び続けられるようにすること」という結論に達しました。そういう意味で、私の学歴といまのビジネスはつながっていると言えるかもしれません。

コーナーストーン オンデマンド 創業者/CEO
NASDAQ市場に上場するコーナーストーン オンデマンドを1999年に創業。同社のラーニングおよびタレントマネジメント・ソリューション群は、クラウドベースで世界192ヵ国、3500以上の企業・団体が利用している。
――大学院を出て、投資銀行などで働いた後、創業するまでの2年間、世界旅行に出かけたそうですね。その旅で何か見つけましたか。
世界は違いよりも、類似性のほうが大きいということですね。世界中のどこへ行っても、人間は基本的に同じだと感じました。そして、起業するならグローバルな会社にしたいと思いました。現在、我々のお客さまは192カ国に及び、ソフトウエアは43の言語で提供され、売り上げの40%以上が米国以外からもたらされています。
――1999年の創業以来、急速なスピードで成長を遂げてきましたが、成功の要因は何ですか。
最初の6年間はゆっくりとした成長スピードでしたが、2005年~2014年の10年間は年率60%の勢いで急成長しました。2年ごとに会社の規模が3倍になるペースです。その背景として、2つの大きな変化がありました。1つは、ビジネス社会において、クラウドコンピューティングやSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)が受け入れられるようになったこと。もう1つは、タレントマネジメントの必要性を多くの会社が強く意識するようになったことです。つまり、個別のソリューションではなく、1つの統合されたソリューションで従業員のライフサイクル全体をマネジメントする必要性です。この2つの大きな変化に対応し、クラウドベースで統合されたラーニング・ソリューションとタレントマネジメント・ソリューションを提供することで、当社は急成長を遂げました。
海外展開を始めたのは2007年からですが、当時、気づいたことは、我々が提供しているソリューションは、民間企業だけでなく、政府・官公庁や教育機関、非営利団体などにも同様の価値をもたらすということです。そのことも、我々のビジネス機会を大きく拡大しました。
――御社は現在、25ヵ国に拠点を持ち、約2000人の従業員を抱えています。グローバル企業のCEOとして、従業員に対して何を求めますか。
我々は企業文化をとても重視しています。私は、どこの国・地域においても、従業員に対して「スマートであること」「クールであること」「頼れる人であること」「ビジョンを持った人であること」の4つを求めます。
採用においては、これら4つの要素を潜在的に持った人材を見つけ出すために面接を行いますし、採用後も、4つの要素に基づいてパフォーマンス評価を行います。その年に最も活躍した従業員「エンプロイー・オブ・ザ・イヤー」を選出するときも、この4つを重視します。さらに給料を決める際にも4つの要素を考慮することで、我々の企業文化はより強固なものになっています。
世界中にこれだけの従業員を抱えていると、遠隔地にいるチームをうまくマネジメントする方法を学ばないといけません。一方で、世界のどこにいても、成功するための共通の方程式があると思います。それは、従業員をきちんと処遇し、尊敬の念をもって対応すること。一人ひとりの能力を高めて、キャリアアップの機会を提供することです。
最近は、すべての従業員に対して、モビリティ(移動)の可能性を提供することが非常に重要だと考えています。ここでいうモビリティとは、会社の中での別の部門への異動という意味もありますし、世界の別の地域で働くことも意味します。いずれにせよ、本人の能力を高めていけるようなモビリティの機会を提供することが大切ですし、我々のソフトウエアがモビリティ向上を支援しています。