継続的な能力開発を怠っていると
スキルはすぐに陳腐化してしまう

――4つの要素をコアとする企業文化をグローバルな組織全体で強化していくためには、採用から能力開発に至るまでの全てのタレントマネジメントのプロセスを統合する必要がありますね。

 私たちはそのプロセス全体を「タレントエクスペリエンス」と呼んでいます。採用の段階を経て新入社員になり、経験を積んでいくなかで、仕事が非常にうまくできるようになる。さらに、マネージャーに昇進して「いいマネージャーになるにはどうしたらいいのか」「どうやってチームのパフォーマンスを高めていけばいいのか」を考えるようになります。当社では世界中どこであっても、これらのプロセスは統合されているので、一人ひとりのタレントエクスペリエンスを高め、潜在能力を引き出していくことが可能です。

 タレントエクスペリエンスを高めるためには、プロセス全体の統合とともに、適切な学習機会を提供することが重要です。例えば、現在は技術革新のスピードが非常に速く、各企業のあらゆる職種の人々に対して影響を与えています。どんな人であっても継続的に能力開発していくことが不可欠で、そうでなければスキルが陳腐化してしまいます。これは日本を含めた世界中の企業が直面している大きな課題です。

 昨年1年間で我々のソリューションを通じて提供されたトレーニングは世界中で10億を超えます。マシンラーニング(機械学習)の進展は目覚ましいものがありますが、我々はこの領域において、どこの会社よりも多くのデータを蓄積しています。

――学習機会の提供や能力開発において、マシンラーニングをどう活用しているのですか。

 Netflix(ネットフリックス)が提供しているエンターテインメントコンテンツを想像してみてください。ネットリックスは、一人ひとりの視聴履歴をAI(人工知能)に学習させることで、推奨するコンテンツをパーソナライズしています。それと同じように、我々もマシンラーニングの技術を使って学習コンテンツを個別最適化しています。そのために、膨大なデータを日々蓄積し、AIに学習させています。

 ある人がこれまでどういったトレーニングを受けたのか、同じ職種や役職の人はどんなコンテンツを学んでいるか、本人が望むキャリアアップを実現するためにどういったトレーニングを受けるべきなのか、あるいは上司はどういったトレーニングを受けることを期待しているのか。そうしたデータを解析して、一人ひとりに最適化された学習プランを提供することが可能です。

 私たちは美術館のキュレーターのように、世界中の学習コンテンツから優れたものを厳選して、お客様にサブスクリプション(定額課金)制で提供するサービスを始めました。また昨年、マイクロラーニングのリーダー的企業であるGrovo(グローボ)という会社を買収しました。マイクロラーニングとは3分程度の短時間で学べる学習コンテンツのことです。Grovoが開発したツールを活用すれば、お客様自身が動画や画像、テキストなどを使ってオリジナルの学習コンテンツを簡単に作成することができます。今後は日本語でご利用いただける学習コンテンツをどんどん増やしていきます。

――ラーニング・ソリューション、タレントマネジメント・ソリューションの分野では競合企業がどんどん増えていますが、その中で競争優位性をどのように維持しますか。

 創業当初、すでにこの市場には150社の競合があり、我々は151番目の会社でした。それがいまでは業界のトップランナーとなっています。それを可能にした要因は、とにかく勤勉に一生懸命やってきたこと、忍耐強くやり抜いたこと、ビジョンを持っていたことが挙げられます。

 また、早い段階からクラウドの可能性を理解していたこと、人材管理のあらゆる側面を1つのソリューションで統合できると確信していたこと、さらに、世界中のコミュニケーションはモバイルに移行していく、あるいはAI/アナリティクスがタレントエクスペリエンスの鍵を握ると予測していたことなど、常に時代の先頭を走っていたことが競争優位性につながったと思います。

 創業当初から、お客様の定着率が非常に高い点も我々のビジネスの大きな特徴です。我々が開発するソフトウエアは3カ月ごとに更新され、お客様は常に最新のテクノロジーを利用できます。そして、お客様が支払うのは月額固定の金額です。こうしたサブスクリプションの仕組みもビジネスに成功をもたらしました。

 私自身が大人のためのラーニングとタレントマネジメントの領域に20年携わってきたことから、当社が業界の「Thought Leader」となったことも大きいでしょう。Thought Leaderになるということは、人事のソフトウエアがどういうものであるべきかを定義づける役割を担うということであり、いわば、そのゲームのルールを決めているのが我々ということになります。そのことで、さらにリーダーの立場を維持できると考えています。