-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
-
PDFをダウンロード
深刻化する医療サービスの低下
2004年のクリスマス。32歳のあるベルギー人女性が健康な女児を無事出産した。取り立てて珍しいことではないかもしれない。7年前、彼女はホジキン病リンパ腫の診断を受けていたことを除けば──。
腫瘍の化学療法によって不妊症になるおそれがあったため、医師団は彼女の卵巣を外科手術によって一時摘出し、冷凍保存した。そして、ガンが十分に寛解して治療が終わった段階で、卵巣を解凍し体内に戻したのだった。その後、彼女は妊娠し、無事出産に至ったのである。
このような医学上の奇跡は、いまやありふれたことになりつつある。とりわけ、不妊治療、ガン治療、心臓病治療、エイズ治療の技術進歩は目覚ましい。にもかかわらず、アメリカの医療制度の下では、医療技術が十分に発揮されていないことが多い。満足に治療を受けられない人が大勢いるばかりか、治療によってむしろ悪化することさえある。
インスティテュート・オブ・メディシンの調査によると、アメリカの病院では、毎年9万8000人もの患者が医療ミスで死亡し、ほぼ同数が院内感染で死亡しているという調査結果がある[注1]。
センター・フォー・ディシーズ・コントロール・アンド・プリベンション(CDC)の推計では、医療ミスや院内感染で死亡する患者1人に対して、死に至らなかったものの何らかの感染症にかかった患者が5~10人はいるはずだという。アメリカの年間入院件数は、のべ3360万件を数える。1000人のうち88人は治療に起因するケガや病気に苦しみ、うちおよそ6人が命を落としているという計算だ。
つまり、本稿に目を通す15~20分の間に、アメリカの病院では医療ミスや院内感染が原因で5~7人の患者が亡くなり、85~113人が何らかの被害に遭っている。医療事故の専門家であるルシアン・リープは、アメリカの病院に入院するのは、建物や橋からパラシュートで飛び降りるくらい危険であると指摘している。
世界最先端の医学を誇る国で、なぜこのようなことになっているのだろうか。医療関係者の怠慢のせいだろうか。いや、むしろ逆である。彼ら彼女らは概して聡明で、厳しい訓練を積んでおり、苦しむ人を助けたいという思いからこの仕事に就いている。