経営モデルを未来志向に変えていく

── しかし日本企業においては、単年度経営計画、中期経営計画があり、その先に長期戦略があるという時間軸の立て方が主流です。

 それが時代に合わなくなっているのです。コロナショックで経営環境が大きく変化し、ほとんどの企業が、過去や現在の延長線上に未来を描けなくなっています。そのような中、10〜20年といった長い時間軸で過去や現在の延長線上にはない新たな未来像を描き、抜本的な経営変革を果たしたいと考えている経営者は、実は少なくありません。ところがここで、中期経営計画で染み付いた時間軸が心理的にその足かせとなってしまう。というのも、大きな変革から成果を生み出すには、3〜5年という時間軸は短過ぎるからです。

 あのアマゾンですら黒字転換に約10年の年月がかかっていますし、いまはやりのサブスクリプション型サービスにしても、成長局面に入るには、ユーザー数やデータの蓄積量が一定の水準を超える必要があり、それまでは何年にもわたって赤字ないし低収益の状態をじっと耐えねばなりません。それを3〜5年の時間軸でジャッジしていると、その後のエクスポネンシャルカーブを見ることなく、将来性のある事業をことごとくつぶすことにもなりかねません。

── 日本企業が経営の時間軸を変えるためのヒントはありますか。

 ビジネスに「社会課題の解決」という視点を加えることです。未来をあれこれと予測するのでなく、まず自社が志向する理想の未来の社会像を描き出し、その実現のために自社がなすべきことを探るのです。自社の強みを見つめ直すためにも、持続的なビジネスモデルを検討するためにもこのアプローチは有効です。

 とはいえ、漠然と未来をイメージするのは難しい。そこで参照すべきフレームとして役に立つのがSDGsです。SDGsは「2030年の望ましい未来」として世界がおおむね合意したゴールですから、企業が向かう方向を見定める”的”として有効なのです。

── 社会課題の解決という「未来図」を持ち込むことで、長期視点を獲得するのですね。

 それは同時に、短期的な課題を明確にするためにも役立ちます。

 SDGsに含まれる課題は非常に幅広いので、これをビジネスに生かそうとすれば「Where to play=どこで戦うか」や「How to win=いかに勝つか」という戦略的視点でマーケットを見定める必要があります。まずは未来において自社が存在感を示したい領域に着目し、10年後にそこに至るためには、今何をすべきかを考える。すると、関連領域のスタートアップに投資したり、必要なケイパビリティーを持つ他社と協力関係を築いたり……といった複数の打ち手が見つかるはずです。長期を遠望した目で現状を見つめ、今やるべきことを明らかにする。まさにズームアウト(長期)とズームイン(短期)の反復です。既存の製品、既存の市場だけを軸にした中期経営計画的な戦略立案のアプローチを、「社会課題」という新たな軸を加えることで未来志向に変える、といえば分かりやすいかもしれません。