「社会課題解決」というブルーオーシャン

藤井 剛
Takeshi Fujii
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 パートナー
モニターデロイト ジャパンプラクティス リーダー

電機、通信、ハイテク、自動車、保険、不動産、消費財、ヘルスケア等幅広い業種において、経営/事業戦略、イノベーション戦略、デジタル戦略、組織改革等の戦略コンサルティングに従事。社会課題解決と競争戦略を融合した経営モデル(CSV)への企業 変革に長年取り組み、モニター デロイト グローバルでのThought Leadershipを担う。 『Creating Shared Value : CSV時代のイノベーション戦略』(2014年)、『SDGsが問い かける経営の未来』(2018年)、『Detonate:ベストプラクティスを吹き飛ばせ』(2019年: 翻訳)等、著書・寄稿多数。

── 企業ブランディングのためにCSR活動に取り組んだり、企業価値の向上を狙ってソーシャルマーケティングに力を入れたり、といった形で企業が社会課題にコミットする流れはこれまでにもありました。しかし、社会貢献をビジネス化して利益を生み出し続けるのはやはり難しいように思います。

 かつてブームになったCSRと、ここで提案している「社会課題解決」は似て非なるものです。CSRはブランディングやリクルーティングに効果が認められても、基本的には企業の善意に基づく任意の活動です。しかし、今、企業が社会課題にコミットすることは、自社が本業とするビジネスで競争力を獲得し、利益を最大化するためにこそ、もはや避けて通れないテーマとなっているのです。

 その背景には、まず社会課題の複雑化があります。SDGsの17のゴールを眺めれば分かるように、現在の社会課題には複合的な要因が絡み合っており、もはや公共セクター(国や自治体)が縦割りで解決できるものではありません。社会課題は国、経済は企業、という単純な役割分担ができなくなっているのです。こうした時代に企業が経済だけにまい進すれば、自らがよって立つ社会基盤そのものが危機にひんし、ビジネスの存続どころではなくなります。

 これを別の角度から見れば「社会課題解決こそが巨大なブルーオーシャンだ」といえます。社会課題への対応の失敗は、時に何兆円もの経済損失を生み出し、事後的に税金で埋められてきました。もし企業がビジネスとしてその課題を解決できれば、それは何兆円ものビジネスチャンスに変わります。既存のマーケットの多くが成熟し、どんなに目新しい商品やサービスでもあっという間にコモディティー化してしまう現在、国や自治体といった公共セクターだけでは解決できない社会課題の周囲には、広大なマーケットが広がっているのです。

── しかし、公共セクターが既存のリソースで解決できない社会課題を一企業が担えるでしょうか。

 そこで第2のポイントである「ステークホルダーとの関係性の再定義」が重要になります。公共セクターが解決できない課題を、企業1社が肩代わりするのはとうてい不可能です。しかし、デジタルの力を生かして多様なプレーヤーのケイパビリティーをつなぎ、新たなエコシステムを構築すれば、これまで不可能だった方法が立ち上がってくる可能性は十分にあります。

 先ほど申し上げたように、今ここに社会課題が存在するということは、既存の打ち手に限界があるということです。だからこそ、企業が先導して公共セクターやソーシャルセクター(NGOやNPO)、あるいは既存の市場では競合関係にある企業、さらにはさまざまな知やスキルを持った個人とも縦横無尽につながり、新たな打ち手を見つける共創にチャレンジすることに意義があるのです。

 企業が公共的なプレーヤーとつながることには、短期的な利益を優先しがちなビジネスのロジックにからめ捕られず、長期的な視点も保持してズームアウト・ズームインを機能させやすくなるというメリットもあります。もちろん、利益を生み出す仕組みは必要です。地球市民として社会課題を解決していく視点、企業として収益を生み出す両極の視点を併せ持たなければならないのです。


参考文献:『SDGsが問いかける経営の未来』モニターデロイト編(日本経済新聞出版社)

後編に続く
新たな経営モデルの3つの構えで「両極」をビジネスに生かす(後編)